獣の女医 in アフリカ

毒蛇とテーブル

ずいぶん前、まだ私の家に家具が一つもなかった時代、道端のフンディ(大工)からテーブルを買ったことがあった。大きな切り株をそのままテーブルにしてあるとてもおしゃれなテーブルで、交渉して五百シルで買ったのを覚えている。大きなテーブルを車の後に乗せ、ウキウキして家に帰り、さっそく部屋の中に入れてみた。まだ家具が全然ないので、ガラーンとした部屋に大きいテーブルがポツンとあってなんか寂しい感じ。「かわいいからいいか!」とかなり気に入っていた。

テーブルを買って二日後ぐらいたってからだと思う。テーブルの下から木屑が出てくるのに気がついた。

「やっばー、シロアリだ・・・。」

どうやら長いこと外に置いてあったので、テーブルの下がシロアリにやられているみたいである。外に出してテーブルをひっくり返してみると、やっぱりその通り。ちょっと彫ってみると、かなりやられている。ガーデナーの「木屑を買ってきて、ボンドとまぜてうめたらどうか」との提案をトライすることにした。

「シロアリにやられている所は全部掘り出してね。」

ガーデナーはさっそくパンガ(山刀)でテーブルを掘り出した。すると、出てくる出てくる、木屑が・・・。すぐに辺りは木屑だらけになった。よく見ると木屑の中ではシロアリがウヨウヨ動いている。うぇっ・・・、思わず背中が寒くなった。

「バド・イコ・ナ・ドゥドゥ・ミンギ。(まだまだ虫がいっぱいいるよ)」

ガーデナーは大きくパンガを振り下ろしながら切り株のテーブルの底を彫っていく。なんか、どんどん穴が大きくなっていくではないか。そうとう奥までシロアリにやられているらしい。もうこのテーブルは捨ててしまおうかなと思ったその時、

「ギャー!!」

突然ガーデナーが叫び声をあげてテーブルから飛びのいた。

「キトゥ・ガニ?!(何事っ?!)」

私がテーブルの傍に駆け寄ると、彼はパンガを大きく降りまわしながら私をテーブルの傍から引き離した。

「ニョカ!イコ・ナ・ニョカ・クブゥア・サナ!(蛇!大きな蛇がいる!)」

ま、まじかい・・・。背伸びしてテーブルに開いた穴を覗き込んでみるが、暗くてよく見えない。ガーデナーは力いっぱいパンガで穴の中をガシガシ切りはじめた。私も家に飛び込んで台所から包丁を手に持ち、庭に戻った。ガーデナーはパニクっているのか、かなり発狂してテーブルを破壊している。蛇がこっちに来たら戦わなければいけないと思い、私も手に包丁を握ったままガーデナーの後に立った。この時、私はインド人の家の敷地内のゲストハウスに住んでいた。あまり騒いで私が蛇を持ち込んでしまったとバレたら追い出されるんじゃないかと気が気じゃなかった。

5分ぐらいたっただろうか、ガーデナーは格闘を終えて、穴から真っ黒な蛇をパンガで引っ張りだした。かなりでかい、六十センチぐらいの長さはあるではないか。真っ黒なウロコが太陽の光にキラキラ反射していた。蛇の背骨はガーデナーとの格闘でボキボキに折られていた。棒でつついて死んでいるのを確認してから近づいて蛇の顔をよく見てみることにした。顔を近づけて、一瞬ゾッとした。アフリカで一番攻撃がすばやくて、その毒でよく人が死ぬブラックマンバだった・・・。別に蛇は怖いと思わないが、毒蛇は怖い。ブラックマンバの毒は神経性の毒。一度噛むと100−120mgほどの毒が出るらしい。そして致死量はたったの10−15mg!噛まれるとまず筋肉の動きが止まり顔などの動きが止まる。そして1時間ほどの間に心臓や横隔膜などが麻痺して呼吸困難で死ぬ。おーーーーーっ!知らないとは言え、テーブルを家に入れてブラックマンバと2晩も部屋の中で過ごしてしまったぁー!ガーデナーもブラックマンバとは思っていなかったようである。彼は恐る恐るテーブルの穴を覗き込んで、また悲鳴をあげた。

「イコ・ナ・インギネ!(まだ違うのがいる!)」

ホントーかい・・・。結局、切り株のテーブルの中にはブラックマンバが合計二匹いた。最初のがオス、そして次に出てきたのは少し小さな茶色がかったメスだった。どうやら長いことテーブルが外に放置されていた間にシロアリが切り株を食べ、その穴に蛇達が住みついたようである。それにしてもムカつくのは、私にその蛇入りのテーブルを売ったフンディである。何かニヤニヤしていたが、最初から下がシロアリに食べられていたのを知っていたのだと後で知った。ま、まさか蛇が住んでいるとは彼も思っていなかっただろう。フンディに文句を言ってやりたかったが、キクユの商売上手のフンディにどう文句言っても言い包まれてしまうような気がしてならなかった。目の前の死んだ蛇を見ていて、いい考えが浮かんだ。私はビニール袋を持ってきて、枝を使って二匹の蛇を袋に入れフンディの所に向かった。

「ニメ・クパティア・ベイ・ムズリ。ワピ・キトゥ・キドゴ?(いい値段やったんだ、オレにプレゼントはないのか?)」

フンディは私の顔を見るなり、ニヤニヤして近寄ってきた。テーブルがシロアリにやられていたんだけど、と言うと、フンディは

「シ・ク・ジュア。バハティ・ンバヤ・トゥ。(オレは知らなかった、運が悪いな)」

とシャアシャアとした顔で言った。その言葉を聞いて私の心は決まった。

「チュクワ・キトゥ・キドゴ・ヤコ。(はい、あなたのプレゼント)」

そういうとビニール袋を彼に手渡した。彼はさっそく袋の中を覗きこんだ。

「ギャーーーーッ!」

叫び声と共にビニール袋は空高く放り出された。袋の中から黒い蛇が飛び出し、フンディはものすごい勢いで逃げていく。辺りにいる人達が大笑いする中、私は蛇をフンディのいる方向に投げた。

「ヒィ・ニョカ・イリクワ・ンダニ・ヤ・メザ・ヤコ!(この蛇、あんたのテーブルの中にいたんだよ!)」

辺りは野次馬でいっぱいになり、フンディ達はしばらくの間この話で持ちきりだったらしい。私も「ムスチャナ・ヤ・ニョカ(蛇娘)」などと呼ばれていたらしい。ちなみにこのフンディとは今も車で通りすぎると挨拶をする仲なので蛇を投げつけたことを怒ってはないらしい。それより蛇の入ったテーブルを売られた私の方が被害者である。噛まれなかったから良かったけど、二晩もブラックマンバと一緒の部屋で寝起きしていたかと思うと、ゾッとする。

(photo-191) ブラックマンバの親戚のグリーンマンバ