アボカド犬
チビはとても頭のいい子犬で、三日もたたないうちにトイレのしつけも覚え、私が学校にいる間もちゃんと待っているおりこうさんだった。家に来た当時からまったく吠えない子で、寂しがり屋で私の周りを離れず、いつも静かに私の隣にいた。しかし、1ヶ月もたたないうちにチビはボーっとつまらなそうな顔をするようになってまった。
「そうだよね、一人で留守番するのはつまらないよね・・・。」
一人ぼっちのチビがかわいそうになってしまった。私が遊んであげるのにも限度があるし、一日中は遊んであげれないし・・・。そんな時、「ジャックラッスル・テリアの子犬がいます」の広告が目についた。チビに友達でも出来ないかどうか、一緒に見に行くことにした。
「この子はいったい何ヶ月?」
見に行った子犬を見て、思わず聞いてしまった。なんだ、この小ささは・・・?目の前の子犬はやたら小さかった。手の平に入ってしまうぐらい、たぶん一ヶ月ぐらいではないのだろうか。するとオーナーは二ヶ月だと言う。小さい上に両目の周りが涙で濡れていて、パグみたいな変な顔した子犬だった。性別はメス。チビの友達を、と思って見に来たが、別に飼おうとは思わなかった。じゃ、帰ろうか、と思って振りかえった。
すると、チビが子犬と遊んでいた。小さい子犬は自分の4倍ぐらい大きいチビに噛みついたりしてじゃれている。チビはこの一ヶ月で見せなかった無邪気な様子でうれしそうに子犬と遊んでいる。
それが「ヤマト」だった。ヤマトはチビが選んだのである。無邪気に遊ぶ2匹を引き離すことがかわいそうで出来なかった・・・。そうしてテニスボールぐらいの大きさのヤマト(ヤマトナデシコの略)は、うちにやってきた。わがままヤマトとお人好しチビの関係の始まりである。
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「こらっ!」
このゴムマリみたいな子犬は性格が超わがままだった。ちゃんと二匹に骨をやっても、自分の小さい骨を捨てて、チビの大きな骨を持っていってしまう。うーん、性格悪いぞ、お前!でも、チビは全然気にしていない様子。よちよち歩きで自分の体より大きな骨を持っていってしまうヤマトの横について尻尾を振ってる始末。小さいヤマトを大事に大事にしてる。二匹はしょっちゅうじゃれあい、ご飯から寝るまでいつも一緒にいた。夜寝るときも小さいヤマトはチビの足の間で寝ていた。チビの眼に始めて見た時の輝きが戻ったようにも見えた。さらにヤマトが来てからのチビの性格は変わった。おどけた様子がなくなり、この子はオレのだ!みたいなどうどうとした態度で、楽しく遊ぶようになった。そして驚いたことにちゃんと大きな声で吠えることも出来るようになった。そんなチビを見ていると、あの時二匹を引き離さないで良かった、と思う。
ヤマトは生れつき涙腺に問題があった。毎日毎日泣いてばっかりなのである。どうも涙腺がちゃんとできていないらしく、涙が溢れ出てくるようである。そして涙腺の他にもやたらお腹が弱かった。ヤマトが庭を自由自在に歩けるようになったころ、突然うっすらと血の入ったゲロを吐くようになった。びっくりして病院に連れていくと、治るのに一週間ぐらい入院した。そして治ってきて一ヶ月ほどたつと、また血を吐くのである。入院と退院、それが四回ほど続いた。貧乏学生にとってはかなりの痛い出費である。別に変な食べ物を与えていた覚えはないのに血を吐くヤマトに首をかしげるばかり。結局、原因が分かるのに半年近くかかってしまった。ヤマトは食べ物アレルギーがあったのである。「アボカド・アレルギー」だった。
アボカドなんて庭になっていたので、全然気がつかなかった。アボカドはしょっちゅう庭に落ちていて、他の犬は大好物でしょっちゅうアボカドを食べていた。ヤマトもアボカドが大好きでよく食べていた。
「本当に何も変なもの、あげていないの?」
毎回入院を繰り返すヤマトを見て、インド人の獣医さんが言った。
「あげてないですよぉー。本当に何を食べているのか分からないんです。」
「よく思い出して、昨日、ヤマトは何を食べていた?」
「いつもと同じご飯です。それと骨をかじってました。」
「それじゃ病気にならないわね・・・。じゃ、家のまわりで何か拾い食いしていない?」
「庭を調べたけど、変なものは落っこちていなかったですよ。」
「庭には何の木が生えているの?」
「庭の木・・・?えーと、アボカドの木が二本生えていますけど。」
「そ、それよっ!ヤマトは、アボカド・アレルギーよ!」
アボカド・アレルギー・・・。ずいぶん贅沢なアレルギーじゃないの。そう言えば、思い出せばヤマトはよくアボカドの実をくわえて走りまわっていた。そうだったのか・・・。そして、ヤマトにアボカドを食べさせないようにすると、血を吐くのも嘘みたいにピタッと止まった。
後になって、アボカドは犬が食べ過ぎると心臓の筋肉が弱るというのを教科書で読み、落っこちたアボカドは犬達が食べる前に回収するようにした。そして、最近は我が家のアボカドはメードさんが近所の人に売っている。

