ホルマリン漬けコレクション
ムサシは逃亡癖のある犬である。ただ逃亡するだけならいいのだが、外に行って喧嘩するやら人を攻撃するやら、ドーベルマンとロットワイラーの血なのか、かなり攻撃的な犬である。子犬の時から、ムサシは自分勝手な子犬だった。親から離れる前から一匹で好きなことをしていて、うちに来てから何でも食べ何でも破壊してくれるとんでもない子犬だった。知らないうちにソファーを破壊してたり、車のワイパーまで壊された。マットレス、スポンジ、いろんなものが糞に入っているのでびっくりすること続き・・・。一番びっくりしたのは小さな糞の中に十センチぐらいの骨が丸ごと入っていた時だった。どうやら丸ごと骨を飲み込んで、そのまま出てきたらしい。よく腸の中で詰まらなかったなと驚くほど、ムサシにとっては大きな骨だった。
ムサシも一歳になり、あまりにも他人に対して強暴なのと逃亡癖があるので、去勢をすることになった。うちはメスばっかりでいらない子犬が出来るのも防げるので、学校の先生が来てムサシを去勢してくれることになった。
「じゃ、犬を呼んで。」
嫌ぁーな予感がするのか、ムサシは庭の中を逃げ回って先生にワンワン威嚇している。ガレージの中でムサシを捕まえて鎮静剤を注射した。この時、私はまだ一年生。初めて見る手術にワクワクしていた。
「簡単だよ。ほら、こうやって片方のScrotumの皮を切るんだ。そうしたら指で穴から押し出して・・・。」
先生が押すとムサシの睾丸はポコッと飛び出してきた。
「うっ・・・・。」
後で見ていたアスカリ(ガードマン)が、すごい顔をしてガレージから出て行った。
「この血管をクランプで止めて。こうやって縛って、切り離して、はい、お終い。」
ほー、簡単なものなんだ・・・。
「じゃ、この穴からもう片方の睾丸も押し出して、同じことをするよ。」
ものの十分ほどでムサシは玉無し犬になってしまった。麻酔から目が覚めた時、ムサシは恨めしそーな顔で私を見ていた。ご、ごめーん、ムサシ!
「来週、男性器のテストでしょ。ホルマリン持ってきたから、勉強のためにこれ取っておきなさい。」
差し出された先生は手の平には、二つの睾丸がコロコロと転がっていた。空き瓶に入れたが、どこに閉まっておこう・・・。リビングや寝室に置くのも嫌だしな・・・。どこにも置く場所がなかったので、睾丸のホルマリン漬けは冷蔵庫の上に置いておくことにした。その夜、メードさんが台所に来て聞いた。
「ヒィ・ニ・ニニ?(何これ?)」
「マケンデ・ヤ・ムサシ。(ムサシの金玉)」
するとメードさんは顔をしかめて台所から出て行ってしまった。あまりにも回りの人からの苦情が多いので、一週間後にテストが終わると睾丸は捨てざるをえなかった。ゴミ箱の中で野菜くずの上に乗った睾丸を見て、なんかムサシに悪かったような気がした。
睾丸のホルマリン漬けでかなり評判が悪くなった私だが、私がアフリカで野生動物獣医になりたいと思ったきっかけのテレビシリーズ「VET IN THE WILD」に出ていた獣医のお姉ちゃんは睾丸のホルマリン漬けシリーズをコレクションとして集めていたらしい。なんでもハムスターやネズミの睾丸から、猫の睾丸、犬の睾丸、ヤギの睾丸、羊の睾丸、牛の睾丸、と大きさの順番ごとに机に並べて飾っているそうである。頭蓋骨シリーズは欲しいなとか思ったことあるけど、私は別に睾丸シリーズは欲しくない・・・。そのお姉ちゃんもある南アの獣医さんのコレクションを見て、負けた!と思ったそう。そのホルマリン漬けには、人の髪の毛やら指やら財布やらが入っていたらしい。
「これは、モザンビークとの国境近くで射殺されたライオンの胃の中身。南アに密入国しようとする難民を食べていたみたい。捨てるのもなんだから取っておいたんだ。」
うーん、ここまでいくと危ない・・・。

