獣の女医 in アフリカ

フェチ・ライオンとカメレオンおじさん

「カメレオンを飼っている人、見つけてきてくれないっすかね?」

またまたー、なんで私にまわってくる頼み事はこんな変なのが多いんだろう。

「なんか爬虫類学取っていましたよねー。ナイロビ大学の動物学の教授とか誰かいないんっすかね?」

友達の○崎オジサンは撮影コーディネーターをやっている。私の前の学位は動物学なので、時々動物学関係やら獣医学関係の情報が必要な時、彼がSOSの電話がかかってくる。

「撮影したいらしいんっすよ、カメレオン。捕まえて来て下さいよー。」

「はー、カメレオンですかぁー。」

カメレオンー、そんな物どこで見つけてくればいーんじゃい・・・。

「カメレオンを探している友人がいるんですけど、誰かカメレオンいっぱい飼っている人とか知らないですか?」

うちの大学の動物学をやっている教授に聞いてみた。

「カメレオン・・・?昔カメレオンを輸出するために増やしている奴を知っていたけど、かなり昔の話で今もやっているかどうかは分からないよ・・・。」

おー、それは有力な情報!どうやらその人は五年ほど前にKWS(ケニア野生動物公社)から許可をもらってカメレオン・ファームをやっているという。
「その人の名前と住んでいる場所を教えてください。」

「名前は言えないんだ。ムゼー・キニョンガ(カメレオンおじさん)としか言えない・・・。ジャムフリ・パークに行ってムゼー・キニョンガはどこかと聞けばいい。」

「・・・・・。」

、全然助けにならないじゃないのさ。

「カメレオンおじさんらしき人物がいるそうです。」

○崎オジサンに報告した。

「そうですか、見つかりましたか。さすがですね。」

「でも、どこに住んでいるか分かりませんけど。」

「探して来て下さい。」

「わ、私がですかー?」

「当たり前です!」

「わ、分かりましたよ・・・。」

もー、面倒くさーい!

「ムゼー・キニョンガって知ってる?」

ジャムフリ・パークで通り行く人に聞いてみること一時間。カメレオンおじさんはいない!「昔はここにいた」、「カメレオンをいっぱい飼っている変わったオヤジだ」、「もう引越してしまって住所は知らない」・・・。誰に聞いても有力な情報はなし。暑いし、面倒くさいし、バカバカしいし、もー嫌・・・と思ったその時、一人の少年が話しかけてきた。

「ムゼー・キニョンガの住んでいる地域なら知ってるよ。」

なにー!

「どの家だか知らないけど、地域なら知ってる。」

でかしたー。さっそくその少年と一緒にカメレオンおじさん探しに行くことになった。少年に連れられやってきた住宅街は普通のケニアの住宅街。別に何も変わった様子がない。本当にこんな場所でカメレオンおじさんなんて怪しい人が見つかるのかしら・・・。その日は家のゲートに「あなたの飼っているカメレオンに興味があります。電話してください」と置手紙をして帰った。

「カメレオンはすばらしい!」

3日後、カメレオンおじさんは私の目の前で甲高い声で笑っていた。どうやらかなりの酔っ払いオヤジらしい。一人で喋り捲っている。

「これが私のカメレオン達だよ。」

そう言って見せられたカメレオンを見て、びっくりした。5ミリぐらいのカメレオンの赤ちゃんから大人までいろいろいるのだ。

「このカメレオンの赤ちゃんは先月産まれたんだ。知っているかい、この種類は卵を生まないで赤ちゃんを産むんだ。かわいいだろー。」

ミニ・カメレオン達は、小さな体でケージの中のハエを目で追いかけていた。まるでおもちゃみたいにかわいい。

「私の夢はカメレオン・ファームを作ることなんですよ。敷地はもう買っています。カメレオンもいます。ケニア人はカメレオンと聞くと嫌うから、カメレオンのすばらしさを教えてあげたいんです。」

カメレオンおじさんはカメレオンを肩に乗せながら喋りつづける。確かにケニア人はカメレオンを嫌っている。不幸をもたらすとか、毒があるとか、いろいろ不思議な理由をつけてはカメレオンは殺されている。ケニアでカメレオンを守ろうとしている人がいるなんて知らなかった。偶然見つけたカメレオン・オジサン、いろいろと面白い人がいるものである・・・。ちゃんと撮影できたのかは撮影まではファーローアップしていないので不明。

ケニアで今年話題になっているのが、サンブル国立保護区の「ライオンとオリックス」 。変なライオンがオリックスの子供を誘拐して、自分の子供として育てようとしているのである。もう今年だけでも、もう二頭のオリックスの子供を誘拐している。撮影隊はぜひそれが撮影したいのだそう。
「これは種を越える愛でしょうかね?」

そう聞く私に対して、○崎オジサンの一言。

「いやー、ただの変態でしょう。」

「はぁ?」

「ただのオリ子・フェチです、このライオン。」

一週間ほどして、撮影ロケに出るはずの○崎オジサンからいきなり電話がかかってきた。
「僕、もう駄目なんすょ・・・。」

「え?何が駄目なんです?どうしたんです?」

「ダニに刺されたんです・・・。熱が40度以上あるんです。」

ダ、ダニー?○崎オジサンはイスに座り込んでブルブル震えていた。

「なんでダニなんかに噛まれてんですか、○崎さん?」

「す、砂ダニですよ・・・、砂ダニ・・・。」

「あの爪と指の間に卵生んで、卵ほじくらなきゃいけないやつですか?」

「そーですよ・・・、砂ダニにバクテリアうつされたんすよ・・・。」

紅茶を飲もうとする○崎オジサンの手はプルプル震えていて、紅茶がバシャバシャこぼれている・・・。

「でも、仕事ですからね・・・。い・・・、行きますよ・・・、ロケ・・・。」

「本当に大丈夫なんですかー?病院行った方がいいんじゃないすか?」

○崎オジサンはプルプル震えながら、上を向いて苦しんでいる様子。

「全然大丈夫じゃないじゃないですか!病院行きましょう、病院!はい、今すぐ行きますよ!」

あまりにも苦しんでいるので無理やり病院に連れていくことにした。病院に着くと歩くのもままならず、車椅子に乗せられ、すぐ入院することになってしまった。○崎オジサンは熱でうなされている・・・。

「ぼ、僕はロケに行けそうもありません・・・・。あー、くるしっ・・・。すんません・・・、後のこと頼みます・・・・。て、適当にやっておいてください・・・。」

あーあーあーあーあー・・・。もーホント迷惑な人ぉー!そして、急遽○崎オジサンのピンチヒッターとして撮影ロケのお手伝いすることになった。

○崎氏の病状は血液検査の結果、リケッツィア。そんな○崎オジサンに対する撮影スタッフの冷たーい一言。

「あ、あの人ねぇー、みんなが止めとけって言ってるのに聞かないで一人で砂浜をサンダルで歩いているんだもん。砂ダニに噛まれてバクテリア入ったってぇー?自業自得だよー。本当、迷惑なオジサンだもんなー。」

この目で見るまで信じられなかったが、オリ子フェチ・ライオンは本当に存在した。どこから見ても健康で普通に見えるライオンがオリックスの子供を連れて歩いていた。不思議だった・・・。ライオンは完全に自分の子供だと思っている様子である。

「○崎さん、いつ復活するんですか?」

「最後の注射があさってなんですよ。」

「じゃ、それ終わったらすぐサンブルに来て下さいよ。私、学校があるんです。」

「冷たいですね・・・。分かりました、ちゃんと来ますよ。」

その言葉どおり、○崎オジサンはサンブルまでのガタガタの道を陸路でやってきて、私はまた平凡な学校生活に戻ったのである。
そして、また五頭目のオリ子が誘拐された。変なライオンのオリ子・フェチはまだ続きそうである・・・。しかし、誘拐されたオリ子を保護するより、そろそろ誘拐現行犯のフェチ・ライオンを逮捕した方が早いのではないだろうか・・・。

(photo-187) フェチ・ライオンに誘拐事件からレスキューされたオリ子。