最強犬・ムサシ
ドーベルマンの母とロットワイラーの父を持つムサシは、うちのお犬達のリーダー的な存在である。闘争心旺盛な犬種を2種類かけた犬なので、小さい時人間(私)にちゃんと服従するようにしつけるのに大変だった。

言うこと聞かないで私に吠えて噛もうとしたから、小さい時は庭で取っ組み合いの喧嘩したこともある。(たぶん、今じゃ〜、かないません)
このムサシが最近とんでもないことをしてくれた。
うちは大学に近い住宅街にあるんだけど、夜間は近くのスラムから野犬がウロウロ徘徊している。ケニアではまだまだ狂犬病が撲滅されていなく、学校のクリニックでも時々もろ狂犬病の症状出しまくり(ヨダレ、架空の物を噛む、凶暴性が増すなど)の犬を見たりする。狂犬病って、他の国では撲滅されているからあまり普通の人は知らないかもしれないうけど、犬や人間も含むすべての哺乳類が感染可能な病気で、発病したら致死率100%!過去100年で狂犬病にかかって助かった人間は、確か一人だけっていう、とっても恐ろしい病気。感染法は狂犬病にかかった動物に噛まれるか、その他はあまり主流ではないが狂犬病ウィルス濃度の濃い空気を吸ったりするのでも感染する。エジプトのピラミッドに最初に入った探検隊がファラオの呪いで7日のうちに全員死んだって話。あれは実は狂犬病にかかって死んだらしい。狂犬病ウィルスの濃度が濃いコウモリの糞いっぱいのほこりを吸い込んで感染したと言われている(私ゃ、絶対洞窟なんていかないぞ〜)。
その日、私は朝の3時ぐらいに起きて試験勉強をしていた。5時ぐらいになって、突然すごい動物の叫び声がした。アスカリ(ガードマン)が窓までやってきて、
「ムサシ・アメ・ウア・ウンブゥア・インギネ!(ムサシがどこかの犬を殺した!)」
「ウンブゥア・ガニ?!(どこの犬?!)」
「ウンブゥア・ヤ・ウコ(あそこの犬)。」 (隣の家を指す)
なにっ・・・、お隣さんの犬を殺した・・・?!(げっ・・・)
一瞬、ちょっと冷や汗がたれそうだったが、よく考えるとお隣さんは犬を飼ってない。慌てて階中電灯持って外に出たが、確かにムサシだけ庭にいない。隣の家との堺の垣根を覗いてみたが、暗くて何も見えない。
「ムサシ〜!」
暗闇に向かって叫んでみた。すると、「ウ〜!ガルガルガルッ!」と恐ろしげなムサシの声が聞こえた。しかし、いくら呼んでもうちの方へ帰ってこようとしない。そうとう興奮しているらしい。とりあえず、ムサシが生きているのが分かったので、隣の家に行くのは、明るくなって隣のストリートのゲートが開くのを待ってからにすることにした。
前に愛犬チビを他の犬に殺されたのも早朝のことだったので、結局、ムサシが心配で5時半近くなった時、メードさんを起こして二人で隣の家のゲートに向かった。アスカリは隣の家の犬を殺したと言うが、本当なのだろうか・・・。やばいな〜、お隣さんが新しく飼った犬だったらどうしよう・・・と、かなりブルー。途中通りすぎるゲートのアスカリに「隣の家は新しく犬でも飼ったの?」と聞くと、「あの家には犬はいないぞ」。お隣さんが飼っている犬じゃないということは、や、野犬・・・?
「アイヤ、ムランゴ・イコ・ワジ!(あら、ゲートが開いてる!)」
お隣さんのゲートに着くなり、メードさんと二人で、びっくり。まだ日も上がってないのに、どうしてゲートが開きっぱなしなの・・・?もしかして、ゲートが開いていたから、野犬が勝手に敷地内に入ったのかもしれない。おまけにゲートの先は、真っ暗で何も見えない。私達は、恐る恐る庭に入ってみた(ケニアで勝手に人の敷地に入ったら撃たれても文句言えません)。
「ムサシ〜。」
小声でムサシを呼んでみるが、何の音もしない。懐中電灯で庭を照らしてみると、犬らしい陰が庭の角っこの方に見えた。近くによっていくと、メードさんが「アイッ!」と奇声を上げた。階中電灯に照らされたムサシは、倒れた茶色の犬の横に立っていて、その犬の喉笛はザックリ切られて辺りには血が飛び散っていた。
「ムサシ・・・。いったい何をしたの、アンタ・・・?」
私がそう言いながら頭を撫でると、ムサシはだまって下を向いた。そして、鎖をつけて引っ張っても、血だらけの犬を振りかえり振りかえり見てその場を離れようとしない。
無理やり家に戻って、明るい場所でムサシを見てみた。黒い毛なのでよく分からなかったが、ムサシは結構返り血をあびていて、水で洗ってあげると水が真っ赤になった。階中電灯を使って、怪我をしていないか念入りに調べた。相手は野犬の可能性大である。殺された犬は年取ったオスで、しかも、自分のテリトリーでもない家に入って来たのは、かなりおかしい行動である。野犬だったら予防注射はしていないだろうし、おかしい行動をとっているということは、狂犬病の可能性も多いにある。
「勘弁してよぉ〜、アンタ・・・。頭に傷があるじゃん・・・。」
ムサシの頭には小さな噛み傷があった。ゾッとした・・・。犬は狂犬病にかかると、死ぬまでの時間は相手に噛まれた場所によって異なっていく。噛まれた場所が脳に近ければ近いほど、死ぬまでの時間が早くなるのである。そして、私が見つけたムサシの傷跡は頭・・・。相手が狂犬病だったら、ムサシは1日か2日で発病するだろう・・・。
自分で犬の命を奪ってしまったのがショックなようで、ムサシはボーっとしていた。名前を呼んでも反応がやたら遅い。狂犬病には、凶暴性が増すケースとボーっとして普通の反応が遅くなるケースの二通りがある。いくら噛まれたのが頭だとしても、噛まれてからまだ2時間以上は経っていないだろうから、発病することはないだろう。でも、自分の大事な犬である。心配で、私もあまりマトモに物事を考えられていない。頭を抱え込んだが、もし狂犬病の犬に噛まれたら、そんなことしている暇はない。発病した犬は法律で安楽死をさせなきゃいけないことになっている。ムサシは予防注射を打っているが、発病する可能性がない訳でもない。一刻も早くムサシに狂犬病ワクチンを打たなければいけないし、噛まれた相手が狂犬病じゃないということも確認しなければいけない。急がなければっ!
車で隣の家に行った。メードさんが顔をしかめる横で、私は手袋をして大きな袋に血だらけの犬を入れるのに大忙し。生きていた時なら20キロぐらいの犬だと思うが、死体は死後硬直し始めるとかなり重くなるので、やたら重く感じる。よっこらせと犬の死体をトランクに入れる、私・・・。薄暗い朝方に怪しすぎる行動・・・。すぐさま死体を乗せて次は学校に向かった。まだ寝ている友達(獣医)をたたき起こして、狂犬病のワクチンをもらい、家に帰ってムサシに打った。
狂犬病は隔離病なので政府のラボに知らせなければいけない。カベテにある獣医ラボに行き、狂犬病の疑いのある犬の死体の抗体テスト(Fluorescent Antibody Test)を依頼した。死体は私の車のトランクから取り出され、首を切り取られた後で脳みそが取り出された。結果は午後5時に分かると言う。
その時点で素手で返り血あびたムサシを洗っていたことを思い出し、さらに狂犬病の予防注射を受けるのが半年遅れていたのを思い出す。(やばいっ!) 抗体テストの結果を待っている暇はないのではないだろうか、と、慌てて人間の病院に狂犬病のワクチンがないか電話してみた。すると、
「来週にならないとナイロビ中で在庫がないんですよ。」(なに〜っ?!)
本当に感染してたら来週には死んでるよ・・・。命の危険を感じて、一瞬犬用の予防注射を打とうと思ったが、それもヤバイので友達の女獣医さんのノニー(インド人)に相談してみた。すると彼女の働いているアニマルシェルターに少し残っているらしい。すぐさまシェルターに向かい、やっと狂犬病の予防注射を手に入れる。
「ちゃんと病院に行って、お医者さんに打ってもらいなさいね。」
病院・・・?め、面倒くさいな・・・。筋肉注射なので簡単だけど、ちょっと自分でやるのはなんとなく怖い。またまたノニーに相談してみると、
「大丈夫!私が打ってあげるわよ。今、ジムにいるんだけど来れる?」
まぁ、獣医さんもお医者さんのうちだよね・・・と、彼女に打ってもらうことにした。そして注射をするのは、場所がないので、なんと女子更衣室で!私が腕まくりをして、ノニーが注射針を取り出した途端、突然ドアが開いて一人の女の子が入ってきた。彼女はギョッ!とした顔をしてる。やべぇ〜、変なことしていると勘違いされたかも・・・。慌てて、ノニーと、
「これは予防注射なの!変な薬じゃないので安心してね!」
その子は苦笑いをして更衣室を出ていってしまった。まぁ・・・、そりゃー怪しいよね。(ごめんね、びっくりさせて)
とりあえず、やるべきことをすべて終わらせてた。これで万が一あの犬が狂犬病だったとしても、やるべきことはやった。そして、心臓ドキドキさせながら、5時にカベテ・獣医ラボに電話をすると、
「あの犬は狂犬病には感染していませんでした。」 (お〜っ!)
足の力が抜けるのが分かった。狂犬病じゃなかったんだ・・・、ムサシが感染していなくてホントーに良かった・・・。そして、夕方家に帰り、ムサシが隣の家に入るのに破壊したフェンスを直して一日が終わった。ホント、生きた心地がしない日だった。


