野生動物を苦しめるSNARE
野生動物獣医さんについて野生動物の治療に行って、いろいろ考えさせられることが多かった。私の気になるのは「密猟の罠(Snare)」の問題。
密猟はコマーシャル・レベルとサブシスタンス・レベルがあるコマーシャルな密猟は象牙やサイの角の密猟など、国際的なマーケットに向けて行われる密猟のこと。ゾウやサイは機関銃で射殺され、斧などで象牙やサイ角が無残に切り取られてしまう。密猟者が去った後のゾウの遺体には顔がない。ゾウから生きた象牙を取るのは、生きた人間から無理やり歯を抜いていくのと同じこと。そんなことは不可能だからゾウは射殺され、象牙は顔から無残に切り取られる。そして、サバンナをノッソノッソと優雅に歩いているゾウの美しい象牙は、血に染まったままケニアからソマリヤ国境までかつがれてゆく。そして、我が国、日本でハンコになる・・・。そして、顔を切り刻まれたサイの遺体。その角はオマーンでダガー(刀)作りに使われ、中国では精力剤として粉末になる。なんでゾウやサイを殺してまで象牙やサイ角が必要なのか。象牙やサイ角が本当に美しいのは動物がつけている時なのに・・・。

ツァボ国立公園のオフィスにある、干ばつと密猟で死んだゾウの頭蓋骨。
サブシスタンスな密猟は日々の生活を支えるための密猟。インパラなどのアンテロープを狩ってその肉を食べたり売ったりする小さなスケールの密猟。象牙の密猟は銃と密輸ルートを持った人間しか出来ないが、サブシスタンスな密猟はそうじゃない。輪っか状にされたワイヤーを獣道などに仕掛けて、ワイヤーに動物がかかるとそのまま動けなくなるというのが一般的にSnareと呼ばれる罠。ワイヤーだけでなく、ロープだって空き缶だって罠になってしまう。つまりただ同然に罠が作れるわけである。そして、ただ同然で作った罠を国立公園近辺に住む収入がない人達が、毎日の食べ物を得るためにかけている。考えようによってはコマーシャルな密猟よりたちが悪い。

ワイヤー罠で足が切れたゾウ。
実習の時に治療したの動物の中には、前足に空き缶がはまりびっこを引いているイボイノシシもいた。かわいそうなことに草を食べようとひざまずいた時に空き缶にはまってしまったので、膝が曲ったまま空き缶に入ってしまっていた。その他にも空き缶の他にもロープを後ろ足にひっかけたままで歩いているイボイノシシもいた。子供を3匹つれていたお母さんだったが、ロープが木か何かにひっかかったらその場から動けなくなってしまうではないか。そうしたら彼女の子供達はどうなってしまうのか・・・。

アンテロープなどがかかった場合、動物はその場で死ぬケースが多い。それにゾウなどの大型動物がかかるといったいどうなるのか?それはスロー・デス(死)。痛みに苦しみながら、動物はゆっくりと死に陥っていく。力がある大型動物はワイヤーごと罠を引きちぎってしまうケースが多い。しかしSnareは車のトーイングワイヤーで出来たりしているので、よほどのことがないと切れない。木に結ばれているワイヤーの罠に全速力で走る動物がかかったりしたら・・・?足が引きちぎれたり、頭からワイヤーにつっこんで首がしめられたり・・・。ワイヤーは取れないから、1ヶ月でも1年でもワイヤーを引きずったまま歩いていたりするのも珍しくない。ワイヤーで切れた傷口は腐っていき、結果的に敗血症で死んでしまう。まさしくスロー・デスである。

足にガッチリ締めつくワイヤーを外すドクター。
アバーディア国立公園から「サイがSnareにかかっている」という連絡が入った。行ってみると、サイの後ろ足には錆びたワイヤーが巻きついていた。アバーディアは森林地帯なので、何ヶ月もの間レンジャーに目撃されないでいたようである。麻酔銃で眠らせワイヤーを取り除くと、鎧のような皮膚の下は体中が敗血症におかされていた。ワイヤーによる傷口は深く、壊疽が目立った。一通りの治療を済ませ、サイはリバイブされて立ちあがった。そこで悲劇的なことが起こった。サイの足元には自分の腐り落ちた足が落ちていたのである。何ヶ月にもよるワイヤーの罠がサイの足を完全に腐らせてしまったのだ。足には骨だけが残っていた。そして、三本の足でしばらく歩こうと努力するが、サイは力尽き倒れてその命を断った。何日にも何ヶ月にも、時には何年も痛みに苦しめられ、そして最後には体中を敗血症におかされて彼らは死んでいく。ゆっくりと、確実に動物を苦しめてゆく、それがSnareによるスロー・デスなのである。

ワイヤー罠にかかった後のゾウの足。
野生動物は治癒力がすばらしい。たいがいの怪我は人間の治療など受けずにも治ってしまう。しかし、ワイヤーが傷口に食い込んでいる間は完全な完治は不可能なのである。野生動物が罠にかかった場合、必ずワイヤーを取り外さなければいけない。外見では傷口が完治しているように見えても結果的には敗血症で死んでしまうので、ワイヤーが中にある場合は肉を切ってもワイヤーを取り除かれる。マサイ・マラ国立保護区のゾウのSnareケースでは、ワイヤーは肉を通り過ぎて骨まで届いていた。肉を切っても切ってもワイヤーが出てこないのだ。やっとワイヤーが見えてきた時、獣医さんは言葉を失った。ワイヤーはゾウの白い骨の回りにがっちりと食い込んでいたのである。完治不可能とみなされたこのゾウは、麻酔から覚めることなくその場でレンジャーの機関銃によって射殺された。

肉を切って中のワイヤーを外す。
その他にもSnareによる被害は絶えることはない。
肩から頭にワイヤーにかかったサイ。ワイヤーは鎧のようなサイの皮膚とザックリと切り刻み肉に食い込んでいた。
口の周りにワイヤーがかかったサイ。ワイヤーのせいで口が開けることができないので、そのまま放っておいたら餓死していたはずである。
首にワイヤーが巻きついた赤ちゃんゾウ。
木にかけられたワイヤーが引きちぎることができなかったのか、ワイヤーごと大木を引っこ抜いてひきずり歩くサイ。
牙と口の回りにワイヤーが巻きついたままのゾウ。口蓋には一リットル以上の膿がたまっていた。
ワイヤーに引っかかったまま、大木に板つけにされているサイ。
ケニアだけではない、アフリカ中の動物達がSnareの魔の手に犯されているのである。
KWSで過去二年間のSnareの治療ケースをファイルで調べてみた。Snareはケニア内でめちゃくちゃ多いのに治療されたケースは合計でたったの26件。リポートされるのが少ないのか、治療のためのお金が不足しているのからの問題であろうが、二年間に26件だけとは信じられない事実である。確かにゾウ二頭を治療するのにかかる費用が交通費、レンジャーと獣医の人件費、麻酔銃の弾と薬代、なんだかんだ言っても5万シル(約650ドル)もかかる。たった2頭でである。それに比べてSnareを作る費用は1ドルや2ドル程度。アマラ・コンサベーション(NGO)がツァボ国立公園で行ったSnare回収キャンペーンでは、最初の1日目で200個のSnareが見つかっている。そしてユース・フォー・コンサーベイション(Youth for Conservation)が行ったSnare除去作業作業では、いろいろな国立公園から合計2354ヶの罠が回収された。2ドルで作られたSnareに1頭のゾウを治療するのが約325ドル。まるでわりにあわない。考えるだけで頭が痛くなってしまう・・・。
2001年と2002年に治療されたSnareのケース
動物 Snareの場所 国立公園
2003年
2月19日 ゾウ 後足のまわり アバーディア
20002年
2月18日 ローンアンテロープ 首のまわり ルーマ
2月18日 キリン 左後足のまわり ルーマ
2月28日 ゾウ(子供) 右前足のまわり エルゴン山
4月24日 ライオン 首のまわり ナイロビ
5月16日 ゾウ 首のまわり アバーディア
5月16日 ゾウ 右後足のまわり アバーディア
5月30日 イボイノシシ 左前足のまわり ナイロビ
7月28日 ライオン 首のまわり タイタヒル
7月29日 キリン 首のまわり ツァボイースト
8月17日 黒サイ 首のまわり アバーディア
8月17日 ゾウ 首のまわり アバーディア
8月19日 キリン 首のまわり ツァボイースト
8月19日 ゾウ 首のまわり アバーディア
10月22日 黒サイ 腹、右後足のまわり (個人のランチ)
10月24日 黒サイ 両目のまわり (個人のランチ)
10月24日 白サイ 首のまわり (個人のランチ)
2001年
2月27日 ライオン 首のまわり ツァボイースト
3月1日 ゾウ 左前足のまわり ツァボイースト
4月23日 シマウマ 左前足のまわり ナクル
5月9日 ヒョウ 腰のまわり (個人のランチ)
11月5日 シマウマ 左前足のまわり ナイバシャ
11月5日 ゾウ 右のわき腹(槍の傷) アンボセリ
12月1日 白サイ わき腹のまわり (個人のランチ)
12月10日 イボイノシシ 鼻のまわり ナイロビ
12月24日 シマウマ 首のまわり ムウェエア
卒業して獣医さんになったら、いつかSnare問題に関わりたいと思っている。NGOを作って人害に苦しむ野生動物を救ってあげたい。そのためにアフリカまで来て獣医の勉強しているのだから・・・。21歳でアフリカに来てからアフリカの大地からいろんなことを学んだ。その大地に住む野生動物達に私のやり方で必ず恩返しをしたい。

