獣の女医 in アフリカ

国境越えちゃいますよ〜

「どうして国境なき医師団があるのに、国境なき獣医団ってのはないんだろう?」

ある日、こんな疑問が頭にうかんだ。どうしてだろう?今まで考えたこともなかったけど、どうしてないんだろうか。獣医は人医に比べて必要とされてないからかな・・・?しかし、そんなことないでしょ。アフリカ大陸の人の暮らしほど、家畜が生活の中で大切な役目をはたされている文化もないと思うのに・・・。アフリカ人にとっての家畜、それは肉、ミルク、皮、羊毛、角、蹄、糞(燃料、家の材料、肥料)、労働(畑を耕す、荷物を運ぶ、移動用)のため。絶対なる生活必需品なのです。人の生活を支えるためにも、獣医は必要だ!獣医も国境を越えなければ!作ってしまおう「国境なき獣医団」!

なーんて、意気込んでいたのだが、実はもう「国境なき獣医団」はありました・・・。いや〜、やっぱり・・・。私が考え付くことなんて、誰かがもう考え付いているのね〜。がっくりよ・・・。「国境なき獣医団」はベルギーとフランスのNGOで「VETERINAIRES SANS FRONTIERES」という。南スーダン、マリ、ニジェール、コモロス、ルアンダなど、アフリカ中の僻地にアフリカ人の獣医さんを送り込んでいるらしい。KWSの獣医さんの友達が、南スーダンでそこのNGOに雇われたそう。給料はスターティングで月30万シル(約4000ドル)!アフリカじゃ信じられないようなハイ・サラリー。しかし、雇われる条件として、働く環境が厳しいので本人が遊牧民の部族であること・・・。じゃないと任地で絶えられないからみたい。ちなみに、やっぱりその職をゲットした友達は、マラレル地方出身のサンブル族の獣医さんだったみたい。しかし、現地雇いで30万シルももらえるなんて、すごいっ!

「オレも今日からツルカナ族ってことにしておいて!」

うちのクラスメート達はみんな声を合わせて叫ぶ始末。部族を偽ってもバレるだろ・・・。しかし、南スーダンの戦闘地区で地雷を踏んで死んでしまったら、30万シルもなにもないような気が・・・。

どうやら獣医さんはすでにアフリカの国境を越えてしまわれたようなので、私はさらに考える。別に国境を越えなくてもケニア内でも獣医不足している地域がないわけがない!そうすると、いったいケニアではどの地域が獣医不足なのだろうか。たいがいの地域では地域に派遣された政府の獣医がいる・・・。

「北部だ!!」

半砂漠、無法地帯、政府も獣医さんからも見放された地域といえば北部しかないでしょう!北部にはケニアの家畜(牛、ヤギ、羊、ラクダ)の30.4%が飼われている。しかし、年間雨量はたったの「0−500mm」の間。そのうち年間雨量が年間蒸発率をこえるのが90日間以下の過酷な環境。そして、獣医関係の薬品が購入可能な北部の大きな町はツルカナ湖の近くのロイヤンガラーニ、ソマリア国境へ向かう道にあるマルサビット、その他にはマラレルぐらい。その北部に住む部族は、サンブル、ボラン、レンディーレ、ガブラ、ツルカナ、ダーサニッチ、ソマリ族などなどの主にラクダを飼う遊牧民達。

camel.jpg

おととし卒業した友達がツルカナ湖近辺のシビロイ国立公園よりさらに北に住むダーサニッチ族だったので、彼に北部の獣医事情を聞いてみた。

「ンバヤ・サーナ!(最悪だよ)」

首を振りながら彼は言う。ケニアの国面積のおよそ半分もしめるくせに、ケニアに住む外国人、そしてケニア人でさえもほとんど訪れることがないケニア北部での問題とは・・・?

あるある・・・。しかも、私が考えていたよりかなり難しい問題ばっかり。獣医事情が悪いのは、過酷な環境もあるけど、治安の問題もあるし、家畜の流通事情の問題なんかの方が断然多いのである。こりゃ大変だ・・・。

問題1・乾季の間の水不足(井戸などが必要)
問題2・家畜の流通問題
(家畜とともに徒歩で一ヶ月もかけて町まで移動するためストレスなどで家畜がバクテリアにより肺炎などを起こして死ぬケースが多い)
問題3・Helminthiasis (体内寄生虫)
問題4・Ectoparasitism (体外寄生虫)
問題5・バクテリア感染
(Anthrax, Pasteurellosis, Dermatophilosis, Salmonellosis, Colibacilosis, Brucellosis, Leptospirosis)
問題6・ウィルス感染 (Rinderpest, Foot and Mouth Disease)
問題7・乾季の間に起こるBloat (はんすう動物が大量に炭水化物を食べてお腹の中で発酵し、ガスがたまり胃や腸などが膨張するケース)

北部では獣医がいないために村長などがマルサビットなどの町へ行き、家畜の薬を買ってくるそう。しかし、いけないのはその投与方。薬を買ってきて、高いので水で薄めたりして売ったりしているらしい。薄めた薬なんて投与したらかえって寄生虫が薬に対する免疫を作ってしまうじゃないすか・・・。友達がそんな薬の使い方したら、かえって家畜に悪影響だと文句を言ったそう。そしたら、

「じゃあ、お前は何が出来るんだ?オレの家畜は死にそうなんだ。何もしないで死んでいくより、薄めた薬をやってみた方が助かるかもしれないだろ!」

その言葉に彼は悩んでしまったらしい。確かに自分の家畜が死にそうな人に向かって、免疫がどうたらこうたらと説教しても意味がない(彼らは学校行っていないから理解不可能な世界でもあるし)と感じたと言う。

「自分の同じ部族の人だったのに説得できなかった。オレはダーサニッチ族の伝統的な価値観が分かっているのに非常に複雑だ・・・。」

と彼。

「左を見ればツルカナ湖があり、右を見れば永遠と続く地平線。そしてその先に自分達が住んでいるのとは違うナイロビなんて世界があるのなんて知らない人達なんだ、オレの部族の人達は・・・。」

うーん・・・。つまり、必要なのは目の前で結果が見ることができる「ただ同然で配れる薬品と獣医の労働力」ってことか・・・。しかし、ただで配る薬品があっても、それは一時の解決法であってロング・タームな解決法ではない。井戸を掘る、Disease Managementの教育、北部の家畜流通制度の改革、治安の向上がなければ北部の生活は楽にはならないだろうな・・・。24年ぶりに新しい政府に変ったので,その政府が北部の状況をもうちょっと改善してくれたらばいいのだが・・・。

そして、そんなことを一人で考えていたら、またしてもやられました!「国境なき獣医団」、ケニア北部での活動も始めてくれたよ・・・。やられた〜!私が思いついたアイディアだと思ったのに、悔しぃ〜!

な〜んて、悔しがっても何も始まらないので、どんなことをやっているのか知るために「国境なき獣医団」にボランティアできるか交渉してみたら、

「ケニア人じゃないとボランティアは受けつけません。」

え〜・・・、ケニア人じゃないとダメなの・・・?(ガックリ)

卒業後、まず小動物で獣医の腕を磨こうと思っているけど、これもいつか自分でNGO作って国境越えちゃおうかな・・・。