臭う女・・・?
5年生にもなると、獣医学生はみんなどうでもいい格好をして学校に来るようになる。実習が半日以上あるので、動物臭くなるから誰もしゃれた格好をしてくる人はいない。獣臭くなるのはいい、ウンコ臭くなるのもいい、けれど、死後解剖(ポストモータム)で死体臭くなるのだけは耐えられない。
死後解剖屋は耐えがたい臭いが充満している。その日のうちに運ばれる死体ならまだ臭いがないが、何日もたって腐敗した死体を持ってこられる時ほど辛いものはない。まずお腹を裂かれて、舌から肛門までの消化器システムが切り取られる。そして、その次に他の個所が調べられる。

消化器が切り取られた後の馬(アニマルシェルターでの屋外解剖)。
いくら病気の原因が分かるからと言えど、やっぱり腐敗臭は苦手である。部屋に入るだけで、息もしたくなくないぐらい臭い。でも、不思議なもんで、腐敗臭に囲まれているとだんだん慣れてきてしまう。慣れるというか、臭いに麻痺するとでも言おうか。でも、やっぱり普通の人にはその臭いが分かるようで、解剖室にいた後に外に出ると一般の人には、
「異様な臭いがする!」
「腐敗臭がする女」って呼ばれるのも悲しいので、解剖後は必ず洋服全部洗濯し、シャワーに入って体中をゴシゴシ。臭いを消すのも大変なんです。でも、時々、どんなに頑張っても臭いが取れない時があるのよね・・・。
この夏に一次帰国した時、「パンの焼き方」って本を買った。「焼きたてのパンの匂いは幸せの匂いです」、なんてくっさいキャッチフレーズにつられ、パンでも焼いてみようかなと・・・(単純)。でも、「パンを焼いて持っていくね」と友達に宣言してから、獣医実習が夕方まであったり、夜はムエタイで青アザ作りと忙しかったので、なんだかんだで4週間が過ぎちゃった。その日は実習が早く終わるので、家に帰って「明日香パン・デビュー」を計画していた。
「明日、焼きたてのパン持って遊びに行くわ〜!」
「お!さっすが〜、期待してるよん!」
しか〜しっ!その日になって、ハプニングが・・・。
パンを焼いてみんなに持っていこうと思っていたのに、オレンジピールまでちゃんと買ってパンに入れようと思ったのに、おいしいパンを焼いて幸せの匂いを届けてあげようと思ってたのに・・・(お前もクサイっつーの)、パンが焼けなかった・・・。だって、だって、指が臭いんだもん・・・(まじで臭い)。こんな指でパン生地なんかこねたら絶対犯罪・・・・。

だから、触りたくなかったのにさ!→(馬の大腸)。
だから、参加したくなかったのにさ!→(死後解剖)
だから、手を洗いたかったのにさ!→(ナイロビ6週間ぶっ続け断水)

その前日に腸捻転で死んだ馬がいたんだけど、時間がないので死後解剖は1日半後になった。実習先に朝着いたら、「今日は昨日の馬の解剖をするよ」(げっ!) 今日はパンを焼こうと思っていたので、そういう臭いことしたくない気分なんすけど・・・。すると、同じ実習先のお節介インド人クラスメートが、いきなり素手で「ここに出血の後がありますね」などと言いながら、取り出された腸を触り始める。そして、先生も手袋なしの素手で出血した腸の壁などを調べ始めた。私は、「臭くなりたくない」という意思表示するために後ろに隠れたが、あまり効果なかったみたい。
「はい、これ持ってて」
クラスメートが切り取った腸のサンプルを私に渡してくる。もう臭くなってんだから、自分でサンプルをビンに入れればいーだろ!というのが本心だったんだけど、先生がいた手前断れず、仕方なく腐敗臭のする腸を素手で受け取り、ビンに入れる。まじ、手が臭いよ。綺麗でいたかったのに〜。おまけに、解剖が終わった後になんで水がないのさっ?!(臭い、染み着きまくり)家帰ってバケツの水で何度手を洗っても取れないのよ、腐った腸の臭いがっ!(お馬さん、死んで1日半たってましたね)。
え〜〜〜・・・・。パンが焼きたかったのに〜。せっかく早目に実習引き上げてきたのに〜。友達にパン持っていくって約束しちゃったのに〜。「おいしいパンを期待してね!」なんて大口叩いたのに〜。パンに入れようと思っていたいい匂いのオレンジピール、そのいい匂いも消す強烈な私のお手て。一応、台所に立って小麦粉を手に取ってみる→(触るな、その手で)。
しかし・・・、
「いくらなんでもこの手でパンをこねるのは犯罪じゃないかい?!」
自分に問い掛けたくなるぐらいの異臭。さすがに、これじゃ〜食べ物を触るのはいただけません!泣く泣くパンを焼くの断念。
一応、後日、臭いの取れた手でパンを作ってみました。
感想は・・・、
まずい! (でも、犬は大喜び)
結局、幸せの臭い(?)のするパンはお届けすること出来ませんでした。ケーキは焼けるけど、パンはレパートリーに入れられず、非常に残念・・・。

