マサイマラ巡回家畜診療プロジェクト
●マサイマラ国立保護区●
ケニアのマサイマラ国立保護区は、世界でも有名な動物保護区です。総面積1672平方キロメートルのこの保護区には、ライオン、チーター、ヒョウ、ゾウ、サイ、ヌー、シマウマ、バッファロー、エランド、トピなどの豊かな動植物の生態系が保たれています。隣国タンザニアのセレンゲティ国立保護区からのヌーの大移動は毎年多くの観光客を魅了し、ケニアの大切な収入源の一つでもあります。マサイマラ国立保護区の管理体制は「ナロック州」と「トランスマラ州」の二つに分かれていて、マラトライアングルと呼ばれる面積520平方キロメートルの地域は、2001年から現在にいたるまで「マラコンサーバンシー」(非利益組織)によって管理されています。

●マサイの人たちの暮らし●
マサイマラ保護区は元々、牛、ヤギ、羊などの家畜で生計を立てている半遊牧民のマサイ族(以後マサイ)の放牧地であり、彼らは今も保護区の周辺に住みミルク、肉、血などを主食にして生活をしています。現在、保護区の外には7000人のマサイの人たちが住み、彼らの牛(東アフリカ・ゼブー牛)は20,000頭以上にもなると言われています。マサイの家族は平均100―500頭(時には1000頭以上)もの家畜を飼っていて、家畜が大切な生活の一部分です。このようにマサイの生計は家畜の健康にかかっていますが、トランスマラ州では時折派遣される地区獣医局による巡回指導以外に獣医師による治療は行われていません。

●マサイの人たちの悩みと家畜の病気●
現在、保護区の外に住んでいるマサイのコミュニティーは過去20年に渡って正規の獣医療サービスを受けていなく、病気になった家畜はマサイ自身が薬局で買った薬を使った独自の治療の受けているのが現状です。この地域では熱帯風土病のベクトルであるダニやツエツエバエ、病原体を抱える野生動物の多さなどから多くの風土病が見られます。トランスマラ州で問題視される風土病は、トリパノソーマ病、イーストコースト熱、口蹄疫、牛疫、牛肺疫、リフトバレー熱、アナプラズマ病、ブルセラ病、悪性カタル熱、炭疽など。不定期的なディッピング(殺虫剤塗布)と駆虫剤投与、季節による放牧地の質の違いなどが牛の体調不全につながります。今年の異常な乾期では、一つの村で200頭の牛が餓死してしまうなどの光景が見まれました

この土地の多くの風土病は慢性的な症状を起こすことが多く、家畜死亡、体調不良や生産レベルの低下などにつながっており、マサイの生活に大きな影響を及ぼします。東アフリカゼブー牛のオスは通常平均体重が250キロー450キロ(メスは270キロー318キロ)ですが、トランスマラ地区のゼブー牛のオスの平均体重は約200キロ(メス150キロ)にしかなりません。ゼブー牛の初出産年齢は25―61ヶ月になり、18―20ヶ月で出産できる他の種と比べるととても遅い方だと言えます。その上、栄養失調、慢性的な病気、高齢(屠殺時に6−9歳)などで肉質が悪い為、屠殺からの利益は平均の45−50%にしかならないと言われています。やせ細った牛の屠殺からの利益が低い上、回虫などのせいで肉質が低く、その他にも牛回虫(Cysticercus bovis)などによる肉質の低下および肉の廃棄などが問題になっています。家畜の健康状態はマサイの生計に大きな影響を与えており、家畜診療による家畜健康状態の向上はマサイの生計の向上につながっています。

過剰な家畜頭数のため、乾期の間にマサイは牛の群れの半数近くを無くすことも少なくはありません。大きな群れを持つことがマサイのステータスであることや、家畜に対する依存、生産力のない固体を群れに残す傾向などが、乾期の家畜の大量餓死につながっていると言われています。そして、近年は薬局で買った薬を使うようになってきましたが、間違った薬の使用法や服用量で家畜に投与していることが多いのが問題です。決められた服用量より少量の薬を利用することの多さなどから、ダニ、寄生虫、病原体による免疫問題が心配されています。

トランスマラのマサイのコミュニティーは、政府による医療配給、獣医療配給、教育などが未だに不足していています。彼らが自らの手で家畜の風土病と戦っていくため、家畜の健康管理や薬品の使用法や服用法などについての教育の必要性があります。

●活動内容●
・家畜の診療
・家畜の健康管理についての教育
・薬品の使用法や服用法の教育
・「野良猫・野良犬の人口コントロール」(虚勢・不妊手術)
・「狂犬病撲滅キャンペーン」(ワクチン投与)
・保護区内からの外来種動物の駆除(野良猫の捕獲、虚勢・不妊手術)

●マラコンサーバンシーからのメッセージ●
マラ・コンサーバンシーの活動目標の一つは、「効果的で効率的なコンサベーションマネージメントからトランスマラの動植物の価値を見出す」とあります。マラ・コンサーバンシーの代表ブライアン・ヒース氏は、こう語っています。「マサイマラ国立保護区の長期生存にとって、近辺のマサイの人達が保護区から利益を得ることはとても大切な事です。保護区から利益を見出せなくなれば、最終的にマサイは保護区の土地を放牧地としての返還を要求することが可能です。保護区は収入の19%をマサイに支払うことで金銭的な補償金は出せますが、まだまだ放牧地の補償として彼らにしてあげなければいけないことはいっぱいあります。サバンナに囲まれた辺境に住むマサイは、未だに政府からの医療サービス、獣医サービス、そして教育など不足している。家畜はマサイの生活で一番大切な中軸であり、家畜の病気はマサイの生活自体にも影響を及ぼす。トランスマラ州での獣医療サービスは、マサイにとって何よりも大切である」。

●あすかさんのメッセージ●
野生動物保護の鍵を握っているのは、「観光客」でも「研究者」でもなく、毎日水を汲みに行く時に動物と遭遇してしまう地域社会の人であるということをいったいどのぐらいの人間が知っているでしょうか。いくら周りが「野生動物保護」を唱えても、その土地に住む人たちがなぜ動物を保護する必要があるかのかを理解してくれない限り、効果は期待できないでしょう。

アフリカの歴史を振り返ると、欧米の価値観が広がるのと並行して、それまで野生動物と共存してきた現地の人たちが自分たちの住んでいた土地から追い出され、国立公園や保護区が作られてきました。そして、野生動物が生息し公園や保護区に指定された土地の多くは、遊牧民の土地でした。野生動物が保護され、地域住民がその土地を追いやられる。そうやって、今の野生動物は生き延びてきました。今まで共存してきた人間と自然は引き離され、野生動物は人や畑に被害を与える害獣として見られ始める。大切な家畜がライオンに殺されたり、人がゾウに殺されたりすると、彼らは言う。「保護区近辺に住んでいる自分たちは、野生動物の被害にばかりあっている。動物を保護することに、いったいどんな意味があるんだ?」。爆発的に増えた人間と生息地域を追いやられる野生動物の衝突です。

今まで、欧米方式の保護対策では野生動物のみを保護し、その回りに住む地域住民の存在を無視し続けてきました。近年になり、その方針自体が間違っているのではないかという考えが出てきて、地域社会密着型の保護対策の重要さが重視され始めています。その土地と野生動物と回りに住んでいる地域住民を一つの大きなエコシステムとして考えるものです。土地や野生動物だけを保護するだけでもなく、そこに住む人間もその一環だということなのです。いくら野生動物だけを保護しても、同じ土地に住む人達が野生動物保護から利益を見出さない限り、人々が野生動物を害獣視するのは避けられない。自分も動物学を勉強してきた人間なので、「絶滅動物を次の代に残す」、「利益がなくても保護しなければいけない」と言う考えは理解出来ない訳でもありません。自然保護や野生動物保護は、見る人によって「意味もあるもの」と「意味のないもの」にもなりえるものです。お金にゆとりのある人は「原生林」を見て素直に素晴らしいと感じ、次の世代に残す為に保護したいと思うかもしれない。でも、お金のない人から見れば、それは「売ったらお金になる木材」としか見えないでしょう。その思考をどのように変えて保護に繋げるのかが、キーポイントになってきます。よって私達は保護対策を立てる前、それはいったい誰の目から見た保護であるかを考えなければいけないのだと思います。

公園や保護区が観光からの利益の何%かを地域社会に落としているのは、紛れもない事実です。しかし、多くの場合そのお金の流れはお偉いさん止まりで、実際に地域住民にいき渡っているのかは大きな疑問です。そして地域住民の多くは遊牧民であり、決して教育レベルが高いとは言えません。そんな彼らに「何%の観光利益は地域に下りている」と語っても、実際に目に見えない物を彼らはあまり理解してくれません。保護区には毎日多くの観光客を乗せて走る車の姿が見えます。そして、その傍らで川で水を汲みタンクを担いで丘の上まで歩くマサイの女性がいます。ライオンを見て夢中でシャッターを切る観光客と、ライオンに家畜を殺されていても何の代償も払われない遊牧民。同じ時に同じ場所で同じ物を見ていても、感じることは天と地ほど違ってきてしまいます。

狩猟民族ではないマサイの人たちは、「野生動物」=「利益」のような直接的な利益を生み出すことは出来ません。では、観光ではどうでしょう?少数ながらマサイの村訪問などをやっているマニャッタ(村)は、観光から直接的に利益を見出しています。そんな彼らは、野生動物を見に来る観光客、そして野生動物を保護することに対して積極的です。しかし、問題は、それ以外の人たちです。野生動物と同じ場所に住んでいるけれども、観光から利益を得ていない人たち。そんな人たちがこの地域にすむ住民の多半数です。そんな人たちと保護区を何らかの形で結び付けることが可能になれば、それは保護区持続、そして野生動物保護の持続につながることが出来るのではないでしょうか。

多くの人が忘れてしまっていること、それは「この土地の元々の所有者は、マサイの人たち」だと言うことです。マサイマラが彼ら遊牧民の土地であったからこそ、この広大なサバンナが今日の日まで残っています。彼らが狩猟民族でなかったから、野生動物と家畜が同じ大地で一緒に共存してきました。これが農耕民族の土地だったら、1ヶ月もたたないうちにサバンナは消え辺り一面畑になってしまうでしょう。保護区内の土地だけではなく、保護区の外のマサイの放牧地も、貴重な野生動物生息地です。近年になり町の近くのマサイの中には、自分の土地を貸し出す人も多くなりつつあります。貸し出された広大なサバンナは、今は麦畑と姿を変えてしまっています。遊牧というスタイルでしか家畜を飼おうとしない彼らが家畜に利益を見出せなくなった時、それはサバンナが消えてしまう日です。マサイの人たちはサバンナの守り神なのです。

今、野生動物保護問題で一番必要とされていながら、多くの保護対策で重視されていないこと。それは、保護区管理施設が地域社会に貢献することです。マラコンサーバンシーは、その重要性を強く感じ、このプロジェクトを立ち上げました。管理施設がその地域で一番必要としている獣医を派遣するということは、保護区が野生動物だけでなく、地域社会をも大事にしているということの証明です。そして、彼らの家畜の健康状態が向上するということで家畜からの利益が上がり、また野生動物がマサイと彼らの家畜と共存出来る土地が保護されます。ダイレクトな自然保護策ではなく、地域社会向上を通してのインダイレクトな自然保護策。このプロジェクトは言ってみれば、保護区と地域社会の架け橋なのです。このプロジェクトが起動に乗り、将来的にマサイの人たちの中で獣医、もしくは家畜アドバイザーを育て上げ、彼らが自分たちのコミュニティーの中で家畜の病気と戦っていけるようになれるのが、私の今の将来の夢だと思っています。

●プロジェクトメンバー●
・Brian Heath (Mara Conservancy Chief Executive)
-Mara Mobile Veterinary Unit Project Coordinator
・Dr. Asuka Takita (Veterinarian)

●過去に寄付してくれた団体●
Mara Conservancy
Earthview Ltd
Mara Serena Lodge
Kichwa Tembo Tented Safari Camp (CC Africa)
Olonana Tented Lodge
Oloololo Game Ranch
TBS 動物奇想天外
テレビ朝日 SmaStation-5

★このプロジェクトは、マラコンサーバンシーのプロジェクトの一環ですが、プロジェクト費用は寄付金で補っています。コンサーバンシーは、診療地域の活動許可、国立保護区のパークフィー免除、レンジャーとの無線コミュニケーションやセキュリティー面のサポートをしてくれています。現地のロッジは寄付金や施設の使用など(ロッジ用トラックによるナイロビからの薬品・機材の輸送、シャワーの使用、車の修理工場使用など)の面でサポートしてもらっています。現地での寄付金を集めてくれているのはアースビューという組織で、日本からなどの寄付金管理は私個人が行っています。診療期間の活動内容レポートは毎回サポートしてくれた団体と地区獣医局に提出されます。

●寄付先●
★郵便振替口座
口座番号: 00100-0-667889
口座名称: マサイマラ巡回家畜診療プロジェクト
一口: 千円
★今まで数多くの団体がただで配る物資で現地の相場やモラルを崩してきました。マサイの人たちの自立をサポートするよう、このプロジェクトでは現地では手に入りにくかったり高額で売られている薬をナイロビでの購入値段で扱っています。家畜の診療費用、コンサルテーション、車のガソリン代などはプロジェクト費用で負担しています。

★寄付していただいたお金は以下のことに使用されます:
・ナイロビで購入する薬代(現地で回収したら次の診療の時に使われます)
・治療で必要だけどマサイの人が理解しずらい薬(功ヒスタミンや炎症止めなど)
・治療の際に使用される使い捨て器具(注射針、注射器、手術手袋など)
・野良犬や野良猫の不妊手術の際に使用される麻酔薬、縫合糸、消毒液など
・血液検査や糞検査に必要なスライドやリエージェント
・大型動物治療に必要な器具
・長期テント生活に必要な物(ポリタンク、ガスバーナー、サファリベット、生活必需品)
・ガソリン代
・車のメインテナンス代(車の修理、スペアパーツなど)
・交信費用(マサイマラでの交信費、ナイロビでの交信費)
・僻地の道案内やマサイ語通訳してくれる現地の人材への支払い
・その他に現地でかかった費用(車のレスキューしてくれたりした人の支払いなど)

★現在はプロジェクトは寄付金が集まった時点でマサイマラへの診療に出ています。診療期間は集まった費用によって2ヶ月だったり1週間だったりとまちまちです。
★今のところプロジェクト寄付していただいたお金はいっさい獣医師個人への支払いにはあてていません。将来的にプロジェクトが持続できるようになったときには、プロジェクト費用で現地スタッフ(将来的に獣医師もしくは家畜アドバイザーとして育てたい人材)や獣医師へのサラリーの支払いが出来るようにしたいと思っています。

●プロジェクトで必要としている機材リスト●
現時点ではプロジェクトに使用されている機材などは個人や団体に借りている物で補っています。マサイマラは道がものすごく悪いので自車を活動用に使うと壊れることが多かったり、自分の顕微鏡を持ち運びしているのですがガタガタ道で揺れてぶつけてしまったりと、いろいろ苦労が多いです。将来的にプロジェクト専用に持てたらいいなと思うものをリストしてみました。

・ソーラー・パネルとソーラー・バッテリー(顕微鏡、冷蔵庫、テントのライト用)
・車用インバーター
・オトクレーブ (手術器具の殺菌)
・小型冷蔵庫 (ワクチン保存用)
・大型テント
・トヨタ・ハイラックス・ダブルキャビン
・スペアタイヤ(ホイール付き)
・大型ジェッキ
・ウィンチ
・車がスタックした時に使う砂漠使用のパネル
・車のライターから充電出来るタイヤ空気入れ電動エアポンプ
・ガソリンのスペアタンク
・大型ポリタンク(5000L用)と浄水システム
・マサイマラでの通信用無線機
・大型動物の毛刈り用バリカン
・大型動物診療の器具なら縫合糸から何でも!(ケニアでは入手不可能)

●連絡先●
drasuka@hotmail.com


