7月9日
掲示板の以下の書き込みとメールへの私の個人的な意見です(本人には引用の許可取りました)。これは今日のJMMにも書いてあり、以下は私の記事をコピーしたものです。
「7月から10月ぐらいの間、うちの裏の森には保護区からゾウが移動してくる。毎日森からゾウの声が聞こえてくるし、夕方になるとゾウだらけになるので、この時期はマサイでも6時以降とかは歩いている人はあまりいなくなるほどである。
そんなゾウの声を聞きながら、「もうすっかりゾウのシーズンだな〜」などと季節の変わり目を感じていた時、私のHP「獣の女医inアフリカ」の読者から以下のようなメールが届いた。
「地球温暖化をテーマにしたテレビ番組を日本で放送していました。ケニアでの問題も紹介していて、温暖化により乾期が長く続くようになった結果、象が食べ物を求めて村を襲い人間の畑を荒らすようになったとのこと。その際、何人もの人が象に殺されているといってました。先進国がCO2大量排出→地球温暖化→アフリカ等の砂漠化→野生動物の住かの減少=食料の減少→人間の耕作した畑を荒らす、と言う流れに感じました。温暖化は人間がやってきた事のツケであり、人を襲った象には何の罪もないと思うし、殺された人間ももちろん何の罪もないと思います。根本的な解決は、温暖化を防止して地球を元の自然体系に戻すしかないと思うのですが、動物と人との共存という昔から日本にもある問題がケニアでも起こっているんですね。」
先進国のCO2大量排出がいろいろなネガティブな現象を起こしているのは、否定はしません。しかし、私の個人的な意見を述べさせてもらうと、最近なんでもかんでも地球温暖化と結びつけ過ぎではないだろうか?と感じてしまう。野生動物の住かの減少は、ただ単に人間が増え過ぎて、人間が生き延びる為の自然界からの需要、もしくはビジネスの為の自然界の需要が多くなり過ぎたからではないのでしょうか。アフリカ等の砂漠化問題が重視されているエリアは、今世紀に入ってからすでに野生動物がほぼ全滅してしまったエリアがほとんど。それに比べて、現在Wildlife Conflict (野生動物との衝突)が起きている地域は、この50年ほどで爆発的に人口が増えた場所や、野生動物生息地がすべて大規模な農園に姿を変えた場所が主です。それに北極や南極の氷が地球温暖化による1−2度の変化で大きな影響を及ぼすのに比べて、野生動物との衝突の問題が重視される東アフリカ、そして南部アフリカの国で「地球温暖化→アフリカ等の砂漠化→野生動物の住かの減少=食料の減少→人間の耕作した畑を荒らす」という方程式はどうも当てはまらない。
ケニアだと、ゾウとの衝突がある場所はすべて国立公園の外に広がる Seasonal Migratory Route(季節によって移動する動物が通るルート)や Wildlife Dispersal Areaと呼ばれる「野生動物が野生動物地域から出て来ても生息可能なエリア」が「人間が住むエリア」もしくは「農場」に姿を変えたエリアである。その地域に住む地元住民が「農耕民族」の場合はゾウやその他の草食動物との衝突であり、「遊牧民」の場合はライオンやヒョウなどの肉食獣との衝突が起こる。体重7トンもあるゾウや百獣の王でもあるライオンなどを相手に繰り広げられるアフリカでの野生動物との衝突は、他の国の共存問題よりもかなりシビアな状況であることは言うまでもない。
1970年代にケニア北部最大級であった35,000頭の肉牛を抱える総面積6,320平方キロメートルのガラナ牧場では、20年の間に家畜や人を襲う「害獣」と見なされたライオン500頭以上が射殺されている。この数字は年間25頭のライオンが射殺されたということを表しているが、ライオンは家畜を10頭殺した時点で害獣とみなされ射殺の対象となっていたので(10頭以下を殺さなければ害獣とみなされない)、乱殺されたという訳ではない。そして、現在でも肉食獣の害獣問題の対処として、銃を持たない民族の間でも安く手に入るフューラダンのような毒が肉食獣の命を奪い続けている。
現在は有名なセレンゲティとマサイマラの間を移動する200万頭のヌーの大移動しか知られていないが、実はその他にも1970年代は、マサイマラ国立保護区の外でマラセレンゲティーとは違う独自の移動を続けていた14万頭のヌーの大群もいた。そのヌーの移動していた土地には、1970年後半から大規模な農家が出来上がり、現在のその地域のヌーは4万頭にもならない。ヌーの数が激減したのは1980年前半で、その理由は100,000エーカーという広大なサバンナが麦畑に姿を変えたことと、麦畑に侵入してヌーが害獣として射殺されたことが原因だと言われている。
野生動物との衝突を表す方程式があれば、「人間の爆発的な人口増加→森林伐採やサバンナの農地化→野生動物の住かの減少=人間の耕作した畑を荒らす」だと私は思う。
こないだもナショナルジオグラッフィクスの記事で、「地球の温暖化が90年代でライオンが1000頭も死んだセレンゲティー国立公園でのジステンパーのアウトブレークと関係している」と書かれていたが、それもいくぶん大げさなのではないかと密かに感じている。アフリカでは、過去に10年間サイクルほどで大乾期やエルニーニョなどの大雨期がやってきている。大雨期がくれば蚊が異常発生してリフトバレー熱などの出血熱のアウトブレークが起ったりするし、大乾期がくればダニが以上発生して、ダニからうつる病気に感染する可能性が高くなる。そして、ダニから感染するバベシア症などは免疫力を低くすることから、バベシア症にかかった動物はウィルス感染する可能性も高くなると考えられている。実際にセレンゲティでジステンパーに感染して死んだライオンも、バベシア症とジステンパーに同時感染していたことが分かっているし、疫病学者とウィルス学者によると、セレンゲティとマサイマラのエコシステムの中で定期的にアウトブレークを起こしているジステンパーのウィルスのワイルドストレインが自然界の中に存在しているそうである。ダニの異常発生とウィルスの野生動物への感染が、10年サイクルの大乾期によるものだろうか、それとも地球温暖化によるものなのだろうか。その答えが出るには、もう少し時間が必要なのではないだろうか?
(JMM 『マサイマラ・レポート』 第21回より)

1980年代まではヌーが生息していたサバンナも、今は100,000エーカーの麦畑です(ナイロビからマサイマラへの飛ぶ時に見えるナロック州の麦畑)。
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