被害者の家族からマラコンサーバンシーに連絡があった。この事件の真相を知らせてくれて、ありがとうという内容だった。あまりにもむごい殺され方をしたのとキャンプサイトに到着してからすぐに襲撃が起こったので、親族は誰かの恨みを買ったのかなど、いろいろ悩んでいたらしい。全くの偶然の出来事のつながりに不運にも巻き込まれてしまったのだと知って、被害者が誰かに恨まれて殺されたのではなかったので、「真実が知れて良かった。この先ずっとどうして彼は殺されたのだろうと答えが分からないことを悩むより、真実を知った方が良かった」と言う。こんなむごい真実を受け止めることが出来る彼らの心の強さには、言葉が出なかった。
犯人の証言によると、盗品はカメラ6台、携帯3台、ラップトップと現金少し。一人の命を奪い、後2人に重傷を負わせるのに値しない盗難である。ナイロビにフライングドクターで運ばれた夫婦は一命を取り留めたが、婦人の方は腰骨が完全に破壊されて、今後歩くことが出来る可能性は低いらしい。あまりにも多くの人間の運命を一瞬にして変えてしまった悲惨な事件だった。
8月2日
キャンプサイトでの襲撃が始まったのが、夜8時。追跡犬モラニが追跡を始めたのが、8時45分。犯人の証言によると、モラニはすでに犯人たちの1キロ以内にいたと言う。途中、彼らが落としたと思える双眼鏡やウィスキーの空瓶などがトラックの上で発見されたのだが、それは犬たちの追跡から走って逃げていた犯人の一人(マサイ)が重くて捨てたものらしい。アメリカで追跡犬を使って脱獄犯を追跡し続けていたジョンは、犬がだんだん近づいて来ると犯人は焦り出していろいろな物を逃げながら落として行くので、物が見つかり出したら犯人は比較的に近い場所にいると判断しろと言っていた。
フライングドクターが到着する直前、ハンドラーたちが無線で「モラニが森の中へ入ろうとするのだが、あまりにも茂みが深くて、暗過ぎて追跡出来ない」と連絡があった。マサイの夜間の視力は私なんかと比べ物にならないほどすごい。彼らが「暗過ぎる」と言う森は、私も知っている場所だが、両手でかき分けて入らないと前に進めないほど茂みが入り組んだ森である。ハンドラー3人では危険過ぎるので、「バックアップのレンジャーたちが到着するまで待機するように」と指示を出したが、どうやらマサイの犯人の証言によると、その森で彼らとの距離が開いたようだ。リンダには、「待機させたのは正解。バックアップなしで森の中で追跡し続けたら、ハンドラーたちと犬は射殺されていた」と言われたが、とても複雑な気分である。
その後、レンジャーたちも同行して追跡が再開され、モラニのおかげでまた1キロ以内に追い込んだが、オロロロの丘を登ったところで犯人グループは逃げ切ってしまった。丘の半分まで来た時、30キロ近く追跡し続けていたモラニの体力が尽きてしまったからである。その後、明るくなってから来たライキピアの犬がエンゴスという町にある店まで追跡したのだが、それは後になってからその店にお茶を飲みに行った警察の足跡だったことが後で発覚した・・・。メムシは人間が多過ぎると怖がって追跡が出来ないので、相当な数のレンジャーや警察がいた今回の追跡には向いていない。何事にも躊躇しない勇敢なモラニが2匹いれば、犯人グループを逃すことはなかったかもしれない・・・、アナが到着するのが後1週間早ければモラニの助けになったのに・・・と、いろいろなことを考えてしまう。

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8月1日
先日、逮捕されたのはロルゴリアンに住むマサイ。そして、犯人グループは後6人のクリア族も入れて、7人のグループだったらしい。このマサイの証言によって、事件の裏にある謎が解け始めました(2010年7月の月末リポートはここからダウンロード可能)。
犯人グループはAK47を2丁、そしてショットガン1丁をかついで、7月24日(土)にキハンジャ地区をオートバイで出発し、オロロロの丘の上にあるオロピキドンゴエという街へ向った。その後は徒歩でマラ・トライアングルへ向かい、その日の夜は元オルクルック・ロッジがあったエリアで野宿し、25日(日)の日が沈むまでその森に隠れていたとか。そして、日が暮れてからナロック州に渡り、タレック川の近くのナイボーというロッジに向った。午前3時にナイボーに着いたが、その時間帯から襲撃をして逃げるのには時間がないと判断し、再びマラ川辺りの森に戻ったそう。リトルガバナーズのバルーンが飛び立つのを森の中から見たらしいので、気球の出発が少しでも遅れていたら襲撃されていた可能性もあっただろう。
月曜日の夕方、森に隠れて次のターゲットのリトルガバナーズを襲おうと動き始めたところに、偶然にもリトルガバナーズ近くにあったリバー・キャンプ(うちらのキャンプサイト)にやってきたお客を見つけたと言う。犯人の半数はリトルガバナーズがターゲットなのでこんな小さなグループは放っておけと主張したが、他の血走った半数はキャンプサイトの客に襲撃をかけた。乱射が始まったのは一人の客が持っていた懐中電灯がピストルに見えたからだと捕まった犯人は言っていた。ピストルを持っていたと思ったので、警告なしで頭を撃ち抜いたと。悪いタイミングで間違った場所にいた、それだけの理由で全く罪のない人たちが事件に巻き込まれてしまったのだ。なんということだろう。
犯人グループは月曜の襲撃後、レンジャー、警察、すべてのアンブッシュを逃れ、私が以前住んでいた家の裏の森を通り、オロピキドンゴエ近くの森まで逃げ切った。そして、その森に火曜日まで隠れてて、水曜日にはキハンジャにオートバイで戻って行ったそうだ。その後、マサイの一人が逮捕された後、残ったクリア族の犯人6人はタンザニアに逃亡した。事件は、まだまだ終わっていない。

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7月31日
早朝8時にナイロビを出て、途中いろいろな場所で止まりながら、夕方5時にマラに着きました。そして、直接ンギラーレに向って追跡犬アナをハンドラーたちに渡して来た。モラニとメムシとも気が合って、うまくやっていけそうなので、ホッとしました。アナは追跡もしっかりしていて、性格も臆病ではなく、モラニに似ている。追跡犬ユニットの大きなプラスになることを祈っています。

リンダ(左)と到着したアナ(黒い犬)。

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7月30日
午前2時にリンダが到着しました。アナも無事に到着です。もう、元警察官だったリンダとは、今回の事件での追跡やら今後の訓練についてやら、ホント、話したいこといっぱい。私としては夜間の追跡に特に力を入れさせたい。今回も夜通し追跡したけど、もっとバックアップの人間が慣れていればスピードが上げれたかもしれない。真っ暗闇で野生動物うようよいるエリアでの追跡だから、時間かかったのは仕方ない。実際にカバに襲われそうになってレンジャーが空に発砲しないといけなかったし。でも、もっと訓練を頻繁にして夜間追跡に慣れさせた方がいいと思う。40年に渡って追跡犬ユニットのベテランとして働いてきたジョン。事件の追跡が始まった時、「現場でハンドラーたちを助けたかった」とつぶやいていたと言う。
この事件をきっかけにマラ・トライアングル内のキャンプサイトで宿泊する場合、レンジャー付きでないと宿泊は出来ないことになりました。プライベートに来る人はほとんどレンジャーはいらないと言うことが多いのですが、そんなことを言っていられないことになってしまったので。こんな悲惨な事件が二度と起きないようにセキュリティー強化に力を入れていきます。そして、事件を未解決に終わらせないよう、捜査を続けていきたい。みんな、そう思っています。そんなみんなの切実な思いが通じたのか、夕方に「犯人グループの一人が逮捕された」という連絡が入って来た。このまま警察が捜査の力を抜かず、グループ全員の逮捕の成功を祈っています。

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7月29日
犬たちが追跡している最中に見つけた物のことで、事件の被害者のおじさんと電話で話さないといけなかった。おじさんは事件後のショックから何日かたっていて、ケニアの警察の怠惰な態度に腹を立てていて、私との電話の時も「観光業の人間はみんなこの事件を隠してなかったことにしようとしている!」とか「警察にはうんざりだ。現場にやってきて、さらに私達の物を盗んでいった(ワインやシャンペンなど何本も盗んでいったらしい)」、「この政府には絶望した」と、私には直接的には関係ないことでいっぱいいっぱいどなられた。「自分たちもケニア人だ。ケニアのイメージが悪くなるのをよく思っている訳がない。でも、ケニア人だからってないがしろにされる者の気持ちを理解してくれ。犯人たちが捕まるまで、私たちはこの事件をなかったことなんかに絶対にさせない。絶対に捜査をうやむやに終わらせるようなことはさせない。それが私の気持ちだ。誰にでも伝えるがいい」と。彼の怒りのやり場がないことはよく理解しているので、ずっと彼の震えるような声での怒りの電話を聞いていた。そして、最後に「すまん。君たちには文句はなかったのだが・・・」と電話を切る前に向こうから謝られた。別に謝らないでもいいのに。どうしようもないほど傷ついていているのは、彼らなのだから・・・。
彼らは政府や警察に幻滅していたが、私は観光業の人間に幻滅した。事件が起こって、私が聞いた言葉は、「なんてビジネスに悪いことが起こってしまったんだ」、「殺されたの、ケニア白人だってね、外国人観光客じゃなくて本当に良かったよね」、「プレスに発表する時に「ケニア人」だったってことをちゃんと書いて欲しい」などなど。耳を疑います。自分の誕生日に射殺されたおじさん、未亡人になったおばさん、死にものぐるいで逃げた娘さんたち、銃弾を受けた友達夫婦、血だらけの友達を必死で滑走路まで運んだおじさん、みんな、「ケニア人」です。「ケニア人」だったら、ましなの?
そしてその「ケニア人」たちを必死で助けようとしたのは、セスナで強盗団を探そうと畑に肥料をまく仕事をそっちのけで飛んで来た「ケニア人」のパイロット、ライキピアから自分の追跡犬も使ってくれと送って来た「ケニア人」、その犬を自分のセスナでマラまで連れて来てくれた「ケニア人」。滑走路でフライングドクターのセスナの夜間ランディングを手伝ったのも「ケニア人」、休暇に来ていたのにすぐさま夜中に現場に向って怪我人の応急手当をしたのも「ケニア人」のドクター。マサイマラは外国資本のロッジばっかりなのに、「襲われたのが外国人の観光客じゃなかったのは、不幸中の幸いだね」って。幻滅です。

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7月28日
今日も引き続き、ライキピアの犬とうちらの犬の合計4匹での追跡、そして、マサイランドでのレンジャーたちのアンブッシュを仕掛けています。でも、まだ犯人グループは誰も逮捕されていません。私は明日リンダと新しい犬アナがケニアに到着するので、午後はナイロビに向うけど、あさってにはマラに帰って来る予定です。今回もモラニのように確実な追跡犬がもう2匹いれば、犯人たちが逃げてしまうことはなかったのではないかとか思ってしまう。でも、夜中30キロも追跡して明け方には使い物にならないぐらい疲れてしまったモラニ。アナがモラニの仕事をサポートしてくれる役割をこなしてくれるといいんだけど・・・。でも、メムシもマサイマラに来るまでは臆病問題はなかったんだよね、アメリカで追跡しているだけの時は。マサイマラの過酷な環境にモラニほどうまくアジャスト出来なかったメムシ。アメリカで使われているだけなら特に問題ない犬だったのに、こちらもかわいそうな犬だ・・・。

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7月27日
モラニが昨晩8時45分から、今朝6時まで30キロ近く追跡して、やっとオロロロの丘まで辿り着いたのに、メムシが追跡開始してすぐトラックが消えてしまった・・・。上空からはセスナでのスポッティング、丘の上はマークたちのレンジャーのアンブッシュ(襲撃)がオロロロ・ゲート近くからタンザニアの国境までセットアップされた。さすがに30キロも追跡すると、うちの犬たちは限界が来てしまったので、急遽ライキピアから追跡犬2匹がマラまで送られ追跡を再開することになった。その後、ライキピアの犬たちがトラックをまた探し出してくれ、追跡は丘の上のマサイランドを横断して夜8時まで行われた。まだ犯人は捕まっていなく、マサイランドのどこに人殺し集団が潜んでいるか分からない状態。今晩はアンブッシュグループをいくつか残して、昨晩からマンハントをしているチームが一度レンジャーポストに戻り仮眠を取り、また早朝にパトロールが開始されることになった。
あまりにも危険な状況なので私は前線に出ることは許されず、ライキピアからの追跡犬を連れて来たり、追跡のスタートポイントのトラックを探したりと、昨日の無線係といい、寝ないで何十キロも追跡しているみんなに比べたらかなり楽な仕事していて申し訳ない。でも、さすがに仮眠2時間で早朝5時から夜まで保護区内を飲まず食わずでずっと走り回っていたので、夕方には昨晩からの疲労がピークにきていて、立ち上がることも出来ないぐらいグッタリ疲れてしまった。でも、体力的に疲れたのもあったけど、一番疲れたのは精神かもしれない。

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7月26日
今日の夜8時、マラ・トライアングル内のリバー・キャンプと呼ばれるキャンプサイトが銃を持った推定7〜10人の強盗団に襲撃されました。でも、ほとんど貴重品も盗まず携帯やらワインやらウィスキーやら盗んでいっただけなので、「強盗」と呼んでいいのかも分からない。観光客の1人はその場で射殺され、後の2人は深夜12時近くにフライングドクターで緊急にナイロビ病院に運ばれ命をとりとめました。お金を一切盗まない上、警告なしで発砲し、後は車の破壊しかせず、いったい何を目当ての行為なのか分からず、みんな困難しています。
うちらのレンジャー、コイヤキのレンジャー、ナロックのレンジャー、警察、KWS、CID、GSUなど総勢100人以上によるマンハントが開始され、犬たちも一晩中追跡して、夜明けには元オルクルック・ロッジの下まで辿り着きました。司令室で一晩中、追跡ユニットの指示を無線で出していたので、少し仮眠してからまた明日の早朝から追跡を開始させます。
追伸:
事件の被害者たち(生存者家族たち)が警察がこの事件のことを隠して「なかったこと」にするのだけは絶対にしないで欲しいと悲痛の声を上げているので、マラコンサーバンシーでは真実を受け止め事件を公表することにしています。
ケニアのメディアので報道は間違った箇所が多かったのですが、後日訂正が入りました。

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