獣の女医 in アフリカ

サイの移動

いよいよサイのトランスローケーション(移動)の為の捕獲が始まりました!一日目はサイ3頭を捕獲、そしてその日のうちにメルー国立公園へ送る。そして2日目は、メルー隊が帰ってくるのを待って、3日目にさらに2頭捕獲。オスは2頭、メスが3頭の予定。サイの捕獲はまずダーティング(麻酔銃でダート)から。そして、このダートはヘリコプターを使って上空から実行。

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茂みに逃げ込むサイは、ヘリからダートする。

ヘリにはパイロット、スポッター(ランチ側から派遣されている人で、彼がどのサイをダートするのかパイロットに知らせる)、そして麻酔銃をかかえた獣医さん(後ダートが打たれた時間とサイが地面に倒れる時間をキープするアシストも)。そして地上にはダートされて倒れたサイを追跡する地上隊。地上隊はランドクルーザー2台(1台にはもう一人の獣医、ラボの人、アシスト、そして薬箱がいっぱい。もう1台はサイをクレートに入れる捕獲チームのレンジャーが10人ぐらい)、そしてサイ輸送用の大型トラック3台。

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鉄枠で出来たサイの移動用クレート。

サイの捕獲は早朝からお昼前の涼しいうちに行われる。お昼過ぎてしまうとあまりにも暑くて麻酔がかかったサイが体温コントロールできず死んでしまう可能性が高くなってしまう。そんな訳で1日目、朝6時に起きると(眠いよー、私は低血圧)、紅茶を飲む暇もなく注射器に薬を入れるので大忙し。まずダートにEtorphineを入れる。今回の捕獲は成獣ではなく子供(sub-adult)だったので、Etorphineを 3.5mgとDetomidineを15mg使用。(この量だとちょいと少ないと分かったので3日目の捕獲ではEtorphineを4mg使用になった)1頭のサイに必要な注射は11種類、よって1頭のサイ用に用意された注射器の数は14本(抗生物質は注射器4本分)、かなりの数である。

今回サイに使われた薬品:
DIPRENORPHINE
NALOPHINE 
NALTREXONE (ETORPHIINEの4倍)
ANTISEDAN (DETOMIDINEのリバース用)
AZAPERONE
HALOPERIDOL
CLOPIXOL ACUPHASE
PREPHENAZINE
OXYTETRACYCLINE (8000mg)
IVOMEC (10ml)
TRIQUINE

今回のトランスローケーションはフランス政府やIFAW(International Fund for Animal Welfare) など、いろいろなところからのファンドで行われるらしい。よって1日目は捕獲と獣医チーム以外にもプレスの人もいっぱい来ていた。おまけにKWSの一番トップのお偉いさんが来ていたので、みんなかなり緊張モード。最初の日、私はずっと地上隊だった(結局ヘリに乗せてもらえたのは3日目に一回きり、残念)。

私達地上隊が30分もかけて捕獲の場所に着いたのに、ヘリはわずか5分でついていた。まずヘリ・チームがダートしたというラジオコールを待つ。だいたいは15分ぐらいでコールが入るのだが、時によって30分以上もかかる時もある。コールが入ると、その場所まで行くのだが、これがまるでサファリ・ラリー状態。麻酔が効いたサイは体温コントロールは出来ないし、呼吸や脈拍も下がってしまる可能性が多い、とにかく一時も早くサイにたどりつかなければいけない。しかし、道がある場所でサイがダートされているとは限らない、サイが死んでしまったら大変だ!と、とにかく車はサバンナをつっきって走る!走る!のである(私は3日目の追跡の時に怪我をした)。

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まず麻酔が掛かったサイに目隠しをつける。

1頭目のサイは着いた時、まだ倒れてはいなく、ヨロヨロと歩いている後姿が見えた。ちょうどお尻を私達に向けていて、大きなお尻をふりながらよろけているサイは傍から見ると結構面白いものがあった(そんなことを言っている場合ではなかったのだけど)。サイはフラフラとブッシュの中に向かって歩いていき、ブッシュに少し入ったところで麻酔が完全に効いて寝てしまった。さあ大変、ブッシュで寝てしまうとみんなが入れこめない。チェーンソーを持ったレンジャーがサイのまわりのブッシュを切り始める。私はてっきりチェーンソーはサイの角を切るために持ってきているのかと思ったが(密猟対策のため)、こういう時に使われるのね・・・。人が入るスペースが出来ると、みんな忙しく走りまわり始まる。まずサイに目隠しをつけ、頭のまわりにロープをかける。獣医は急いで注射を打つやら、アシストはパラメター(脈拍、呼吸数、体温)を計るやら、レンジャーはトラックからクレートを下ろすやら、プレスの人は飛びまわって写真を撮るやら、もう大忙し。アシストは私と95年にナイロビ大学を卒業したミリーという女の人だった。(ところで、ミリー、もう2年もたってるんだから、もうそろそろ私の4千シル返せ!)

「私はお尻につっこんで体温測るから、あなたは鼻で呼吸数を数えなさいよー。私は角の近くなんていきたくないわよ、串刺しになりたくないもん!」

そんなことを言っていた彼女も、実際サイが倒れるとそれも忘れたよう。聴診器持ってサイの角の前を飛びまわってた。私もパラメターを計るが、それ以外にもノートに投与された薬などを書くのにも忙しい。サイのお尻に手を突っ込んで体温を測った後、その手でペンで物を書く。おかげでノートはサイのうんこだらけになっていた・・・。おまけに途中ペンをなくして、ランチ・マネージャーがペンを貸してくれたのだが、返す時に何も考えずにうんこがついたペンを返してしまったのが、今でも気になる。

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クレートの中の鉄格子はサイの体当たりで曲がっている。

今回トランスローケーションの為にダートされていたのは、ほとんどが約2歳の子供。成長はしているが、まだお母さんと一緒にいる時期である。その年齢のサイが選ばれたのは、移動先のメルーで新しいサイの人口が増えることを願ってのことだった。よってダートの時、上空から子供を追いかけるヘリにお母さんがかなり反抗的な反応をする。子供を守ろうと、全速力で走りながらヘリと子供の間に割って入ろうとするのである。こっちも仕事でやっているのだが、見ていてかわいそうになってしまう。クルっとヘリの方に向かい合い威嚇するお母さんもいる。私がヘリに乗っていた時のお母さんがそうだった。彼女はヘリに向かい合い、かなり低空飛行しているヘリに長い角で威嚇していた。何度も低空飛行するが、パイロットが、

「これ以上は下にいけない!ママの角にやられるぞ。」

ヘリは上空にあがった。ダートが当たると、子供はだんだんと走るのが遅くなっていく。お母さんは何度も我が子を振りかえって、急ぎなさいと言わんばかりにまた子供のそばに戻ってくる。けれど、8分が過ぎるころになると麻酔がかなり効きはじめ、足取りはポテ・・・ポテ・・・みたいな感じになってしまう。そして、ついにフラフラっとサバンナの中で寝むりこむ。そして、眠るサイの上をヘリがホバリングをしながら回りつづける。そうすると、もうお母さんにはもう何も出来ない。我が子の場所に戻りたいが、ヘリが怖くて近づけないのである。我が子とヘリの方を振りかえりながら、ブッシュの中へ消えていってしまった。サイのお母さんは自分の子供が3歳になるころに、また発情期を向かえ、単独行動をしていたオスと交尾をする。よって、その時期になると子供はお母さんのもとを離れていく。ダートされたのは、その年頃の子供だったが、こういうやり方でお母さんと引き離してしまうのはやっていて、やっぱり心がチクっと痛むものがあった。

麻酔が効いたサイに獣医と捕獲チームがつくと、だいたい15分以内ぐらいでサイはクレートにつみ込まれてしまう。サイには用意された注射が打たれ、ダートが入った場所に抗生物質が塗られる。ダートの注射針は鉄で出来ていて、小指の半分の太さぐらいある。しかし、驚くことにサイの体からダートを抜くと、この針が曲がっているのである。いったいどういう皮膚をしているのだ・・・。しかもダートを抜くのは非常に力がいる。私が抜こうとして両手で思いきり引っ張っても、ビクともしなかった。ゾウの時にも感じたが、女獣医さんが野生動物関係の仕事をしていくには絶対に男の人の助けが必要である。いくら頑張っても、腕力がないのはどうしようもない。

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サイは呼吸パターンで会話をする。変な呼吸のカウントに戸惑う。

メルーに移動されるサイは、耳に固体識別用にイア・ノッチがつけられた。耳に切りこみを入れるのである。これも南アで決められたコードをもとにつけられて、切りこみが入った場所によってサイに番号が読めることになっている。クランプで耳をホールドした後にメスで切りこみが入れられ、切り取られた耳のノッチはナイロビのラボで保管するためにホルマリン漬けにされていた。ラボ用に耳の静脈から血のサンプルもとられ、それはその日の夜に血液のPCV (Packed Cell Volume) とTotal Proteinを計った。

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麻酔から覚める直前のサイ。みんなに緊張が走る。

血液サンプル収集、イア・ノッチ、注射がすべて終わると、サイはリバース剤が打たれる。まずリバース剤が打たれる前にみんながそれぞれのポジションにつく。獣医は注射を打つ耳の近く、捕獲チームのレンジャー達は前方からサイの頭にかけてあるロープを引っ張る者(総勢10人)と後方からサイのお尻を押してクレートに入れる者(総勢8人)に別れ、観客達(プレス)は遠くに離れる。みんなはそれぞれのポジションで無言で「GO!」の合図を待っている。そして獣医さんが静脈に注射を打ち、私はその時間をノートに書きこんだ。

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サイ・引っ張り隊

「ダワ・イメ・インギヤ!(リバース剤が入ったぞ!)」

獣医さんもサイのお尻を押すポジションに入る。リバース剤は約2分でサイをリバイブする。リバース剤が投与されて1分半が経過すると、突然今まで静かに息をしていたサイが急に「ブホー、ブホー」と荒い息遣いになった。

「イナクジャ!タヤリシャ!(来るぞ!準備しろ!)」

捕獲チームのヘッドがみんなにどなる。サイの鼻は大きく開きだしていて、メスでイヤ・ノッチの切りこみを入れても一度も動かなかった耳が、前後にピクピクッと動きだした。その次の瞬間である、1トン近いのサイの突然勢い良く起きあがった!

「トゥエンデッ!(Let’s go!)」

総勢20人近い男達がいっせいに起きあがったサイをロープで前から引っ張り、後ろからクレートに押しもうとする。サイは起きあがった直後で目隠しされたまま、何が起こっているのか分からず、びっくりして「キーキー!!」という金切り声を上げながら暴れている。サイが暴れる前にクレートに入れなければこっちが危ない。みんな力いっぱいサイを押す。ドカーン!という音とともに荒れ狂うサイはクレートの前方の壁に角で体当たりした。その瞬間、すばやくサイの後ろでクレートのドアが閉まった。

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サイ・押し込み隊

「サイはクレートに入れると豚みたいにキーキー鳴くんだ。」

捕獲を始める朝にレンジャー達が言っていた。

「本当―?」

あんまり信じてなかった私だったが、実際に1頭目のサイをクレートに入れた時、びっくりした。本当にキューキュー鳴いているのだ。しかし、目隠しされたサイはかわいい声を出しているが、まだ大きな体でクレートにガンガン体当たりしている。ドアには鉄のちょうつがいが入れられる。ちょうつがいを入れる瞬間にサイがクレートに体当たりをすれば、ちょうつがいを持っている人の指なんてすぐクレートに挟まれて飛んでしまう。かなり危ない。鉄の棒で出来たクレートが、サイが体をぶつけるたびにギシギシと音を立ててゆがみ始めた。

「ハパナ・ワチェリア・カンバ!(ロープを放すな!)」

「シキリヤ・サンドゥク!(クレートを押さえろ!)」

レンジャー達がゆがむクレートを押さえつけた。私はびっくりしてそのレンジャー達の様子を見ていた(クレートに入れる時は、力仕事だから怪我するので引っ込んでいろと最初から言われていた)。うーん、かなり危険でしょー、これは・・・。子供でこんなに大変なんだから、成獣を捕獲するなんて、とんでもなく危険!あまりの迫力に私は、

「すごすぎるっ!」

大感動!!やっぱり、私は野生動物獣医さんになりたい!

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クレーンでクレートをローリーに積み込む。

捕獲されたサイはクレートに入れられた直後、そのままメルー国立公園に移動されていった。5頭とも移動中に何も以上が現れず、メルーで無事リリースされた。メルーに新しいサイの人口が増えることを祈る!