サイに顔を踏まれる?
「サイに踏まれて顔を負傷したって噂を聞いたけど、大丈夫?」
サイのトランスローケーションから帰って来ると、友達からメールが入っていた。おいおい、誰がサイに顔を踏まれたんじゃい!誰だよー、そんな噂を流しているのは。確かに顔を負傷したけど、サイに顔を踏まれてたら死んでますよ、まったく・・・。
三日目、サイ三頭の予定だったが、急遽オーナーが後二頭も捕獲してほしい(他のランチに移動させるらしい)とのことで、その日は合計五頭捕獲することになった。その日も朝早くから注射器とダートを用意して、ランドクルーザーのピックアップの荷台に乗りサバンナに出ていった。ラボの男の子も私と一緒で、薬箱六個をつんだ荷台に座っている。いつもは荷台の前の方に座っていた私だが、その朝はなぜか荷台の一番後ろによりかかって座っていた。一頭目のサイが45分たってもヘリからダートされないので、飽きてしまったのである。彼と私は荷台の後ろにすわり、ブーブー文句をたれていた。
「まだー?もう45分もたってるじゃんー。」
ダートはもう三発もサイに撃たれていた。けれど麻酔銃の火薬の調子が悪く、どうやらダートの薬が出ないらしい。おまけにサイも遠くに行ってしまったらしく、ヘリの姿も見えない。つまらんー、と私達は車の中で待ちくたびれていたのである。
「ランド・クルーザー隊、サイが倒れたので追跡開始。」
50分をすぎたころやっとヘリからの連絡が入り、ランクルはサバンナの中を時速50キロで走り始めた。ここまではいつもと何も変わりはなかった。
「ガッターン!!」
すごい音がして、その瞬間に私の体は宙に浮いていた。
「・・・・・・・・?!」
あまりにも一瞬の出来事だったので何が何なのか分からなかったが、宙に体が浮いた次の瞬間には、視界いっぱいに荷台前方にあるスペアタイヤのボルトが見えた。
「あっ・・・・・・。」
ガンッという衝撃と共に顔に激痛が走り、目の前にお星様がいっぱいキラキラと輝いた・・・。
「いったぁーーい!!」
悲鳴を上げながら私は両手で顔を押さえた。後ろを振り返ると、薬箱が空中を飛んでいた。薬箱は空中で開き、スローモーションでさっき薬を入れたばっかりの注射器がこっちに向かって飛んでくるのが見えた。
「ギャーーーーーッ!!」
びっくりして顔を手でおおったまま、床の上で体を丸めた。ど、どうか、注射針のキャップが外れないでくれーっ!!
「ヒィーーーーーッ!!」
空中飛行した注射器は奇跡的に針のキャップが外れず、二トンのサイ用抗生物質入りの注射器がバラバラと私の背中の上に落っこちてきた。
「ひ、ひぇー・・・・・・・・。」
車が止まって、私が起きあがると体の上から注射器のほかにも使用後のメスやらクランプはさみやら、いろいろ落ちてきた。モルヒネの一万倍のEtorphineが入った注射器があったら即死だった。危ないところだった・・・。
どうやら車はサバンナのど真ん中にあったイボイノシシの穴に時速50キロでつっこんだらしい。私は荷台の一番後ろから、荷台の前についているスペアタイヤのボルトに額から突っ込んだのである。飛んでくる注射器の恐怖と額の痛みで、言葉が出なかった・・・・。ラボの男の子も言葉なしで、膝を抱えて丸くなっていた。彼は膝からボルトに突っ込んだらしい。額に手をやると、手の平いっぱいに腫れあがっていた。皮膚を触ってみたけど、麻痺していて何も感じられなかった。やばい、かなり切ったかな・・・。
「うげっ!」
バックから鏡を取り出して、思わず叫んでしまった。誰だよ、これ?!と言いたくなるほど左側の目の上と額が腫れあがり、まぶたが内出血している。まるでお岩さんじゃん・・・。でっかいタンコブの上もぶつけたショックで切れていた。どうやら私は左の額と目の上の骨からボルトに突っ込んだらしい。し、しかし、痛いっ!!
「額が切れているよ。消毒しなきゃ。」
膝を抱えたままラボの子が言った。薬箱六個分の薬品は、荷台のあちらこちらにちらばっている。それによく考えたら私達は動物用の薬品しか持っていない。人間用の消毒液がないのである・・・。
「ちょっ、ちょっと、まじで・・・?」
いきなり、家畜用の抗生物質スプレーをかけられた・・・。牛の角を切った後とかにつけるやつである・・・。鏡を覗きこむと、でっかく腫れあがった額とまぶたに紫色のスプレーをかけられて、とんでもない顔になっていた。見ているのも気持ち悪いので、巻いていたバンダナを左目が隠れるようにつけてみる。まるでキャプテン・フックである・・・。な、なさけない・・・・、これでも一応は年頃(?)の女なのに・・・。
その日、私はその顔でずっと仕事をした。みんな私の顔を見るとギョッとしていた・・・。お昼ぐらいからひどい頭痛がし始めたので、メルーに移動するトラックに同行するはずだったが、それはやめることにした。その日の午後は、キャンプ場のテントの中で、頭を押さえたままずっと不て寝していた・・・。ふんっ!
結局、私の顔がもとに戻るのに三週間ほどかかってしまった。腫れがひくのに1週間、目の回りのあざが消えるのにさらに二週間。しかし、ぶつけた瞬間に額の皮膚をつぶしたようで、額の左側が上がらなくなってしまった。上を見ると額にシワが出来ていたのが、左側だけ出来なくなってしまったので、なんか変・・・。
頭皮の感覚が一週間ほど戻ってこなかったので、心配してCTスキャンを受けてみた。結果は「脳になにも異常なし」
「スキャンじゃ、アンタの精神的異常さは見つからなかったのかい?」
CTスキャンの結果を読んだ友達が言った。
「うるさいよ、ホントに。」
いいもん・・・、どうせ私はサイに顔踏まれる変な奴だもん。
どうやら前の捕獲の時も同じような事故があったらしい。その時はランクルの荷台の屋根のカバーがなく開いているタイプの車だったそう。事故った時、荷台に乗っていたレンジャーは外に放り出されて、獣医さんは頭からフロントガラスをぶち破って外に飛び出てしまったとか・・・。その獣医さんは全治一ヶ月・・・。うーん・・・、そこまでひどくなくて良かった・・・。そう考えると、私はお岩さんになったぐらいで、とてもついていたみたいである。

