トミーの捕獲
3年の1学期が始まった。1週間目に学校に出たが、お決まりのごとく誰もキャンパスに戻ってきてない。月曜、火曜と学校に行ったが生徒が田舎から帰ってきてないので、授業もない。おいおいー・・・。
どうせ授業が始まるのは次の週になると読んだ私はキツゥイにあるプライベート・ファームにトムソンガゼル(トミー)11頭、イランド2頭、シマウマ2頭を捕獲する為、KWS獣医さんと一緒にナイバシャに行ってきた。
今回の捕獲の獣医さんはキリンの捕獲の時と同じで、ドクター・ガクヤとドクター・レコロール。キクユ族のガクヤはとても無愛想だが、サンブル族のレコロールは私より一歳上の先生で気さくで面白い。99年にうちの大学から卒業したばっかりで、キリンの捕獲の時にレンジャーより速くキリンに縄をかけるために風のように走ったり、麻酔が完全に効いてないライオンが攻撃しようとした時、飛びのきながら自分のジャケットをライオンの顔にかけて目隠ししたりと頼もしい獣医さんである。
まず初日はトミーの捕獲。トミーは夜間にブッシュに網を張って捕獲するのだが、その日は午後3時ぐらいから網を張り始めた。U字に張られた50メートルぐらいの網にランクル2台とトラック2台を使って、ものすごいスピードで走るトミーの群れを追いこむ。トミーってよくテレビでチーターがハンティングしているやつです。ランクル・チェースの間、獣医とレンジャー達は茂みに寝転がって隠れているので、私は追いつくのかしら、と思いながらランクルの様子を観察していた。案の定、トラックが遅すぎて、ランクルに追われたトミーの群れは何度となく網のすぐ手前で逃げていった・・・。

茂みに隠れてトミーが網にかかるのを待つレコロール先生(左)とレンジャー達。
めまぐるしいスピードで逃げ回るトミー達。かわいそうに、死に物狂いで逃げている。捕獲して違う場所に移すだけとはいえ、トミー達は死ぬほど恐ろしいに違いない。野生動物の治療や捕獲はかなり動物にストレスを与える。ストレスから死んでしまったり肺炎になってしまったりするので、ダートや捕獲された動物にはリリースする前に必ず抗生物質が注射される。そりゃ治療のための捕獲とかは、追いかけられる動物に分かっていないもんね・・・。
「なかなか捕まらないねー。」
草むらに寝転がりながらレンジャー達と1時間ほど待ちくたびれていると、突然ランクルのエンジン音と共に、目の前をものすごいスピードで白い動物達が駆け抜けていった。かかった!トミーの群れはいっせいにU型に張られた網につっこんでいった。途端に辺り一面でやかましいヤギみたいな鳴き声がこだまし始めた。
「ベー! ベー!」 「ベー! ベー!」
見てみると20頭近くのトミーが網に引っかかり、必死にもがいている。
「トゥエンデ!(Let’s go!)」
茂みに隠れた人がいっせいに飛び出した。一番始めに飛び出したのはレコロールで、すごいスピードで網から外れようともがくトミーを押さえつけた。ポケットから注射器を出し、
「シキリヤ・ムズリ!ニタ・ドゥンガ・ダワ!(ちゃんと押さえてろよ!注射するから。)」
「ンディオ!(はい!)」 (前足と後ろ足を両手で押さえつける)
「ウメ・シキリヤ?ニタ・ワチャリア・ムコノ。(押さえたな?手を放すぞ。)」
(いきなりトミーが暴れて角でレコロールの手を指す・・・)
「ウェウェー!ニメ・クァンビア・ムシキリヤ・ムズリー!(お、おまえー!ちゃんと押さえてろって言っただろー!)」
「ひぇー!ポレー!(ごめんなさーいっ!)」
あまりにもトミーの手足が細いので、力を見くびっていた・・・。そんなに力があるとは思わなかったんだもーん。見るとレコロールの手の平には小さな穴が開いていた。ごめんなさーい!殺されると思って死に物狂いで暴れているので、思いきり押さえ込まないといけないのね・・・。しかし、彼らの角と蹄のするどいこと!レンジャーが蹴りを入れられるとカミソリのように切れると言っていたのは冗談じゃなかったみたい。次に2頭のトミーを押さえつけた私は、そのうちの1頭が暴れて逃げてしまい、逃げるさいに蹴りを一発くらった。幸いだったのがまっすぐに蹴られたこと。斜めに蹴られたらザックリ切られるところだった。でも、後で蹴られた足をよく見てみると鉛筆で刺されたみたいにポッツリと丸い穴が開いていて、そこから白い脂肪が出ていた・・・。い、痛いよー・・・。

トミーの足から網を外すあすか。トミーの怒りの蹴りをくらう。
「ダクタリー!(先生)、ドゥンガ・シンダノー!(注射を打ってくれー!)」
10人近いレンジャー達がもがくトミーを押さえつけながら叫んでいる。よく見てみると、トミーを押さえつけている人達にはレコロールもガクヤもいた・・・。おいおい、獣医さんがみんなトミーを押さえつけてたら、いったい誰が注射打つんじゃい!レンジャーの叫び声にはっとして獣医さん達は鎮静剤(Clopixol acuphase)の注射を打ち始めた。すべての注射が終わると、トミー達はいくぶんか落ち着いた。彼らの暴れるパワーも弱くなり、手足を持たれ宙ぶらりんにされながらクレートの中に運ばれた。合計で20頭近くのトミーが網にかかり、ぜんぶに鎮静剤を打った。しかし、ファームのオーナーが来て11頭以外は捕獲許可しないので、残りはリリースしろとのことで9頭は逃がすことになった。後ろから「オレ達の薬が・・・もったいない・・・。」とレコロールがぼやいているのが聞こえた。クレートの中を覗いてみると、さっきまで暴れていたのが嘘みたいにトミーはみんな床に座り込み、まるでヤギのように静かに座り込んでいた。

鎮静剤が打たれたトミーを移動用のクレートに運ぶ。
その日はトミーの後にナイバシャのKWSオフィス近くで民家の近くにいるシマウマも捕獲した。最初の1時間はダートが失敗続き。ちょっとでも車や人間が近づくと、かなり遠くからでも逃げてしまい、まったくダートができない。結局、ランクルで全速力で追いかけてダートするしかなかった。ターゲットはメスのシマウマ。まず遠目で群れの中のオスとメスのシマウマを識別。そして、ターゲットが決まるとチェースが始まる。もうかなり夕方遅くなっていて、辺りも薄暗くなっていた。チェースも地面に開いている穴とかが見えないからかなり怖い。全速力でシマウマの群れを追いかけるが、猛スピードで走る車から逃げるシマウマの性別がよく分からなくなった。やっとダートできたが、妊娠していたメスだったのとチェースのストレス、後クレートの中で変に後ろ足の上に体重をかけてしまったのが原因で、そのシマウマは目的地でリリースされた時に死んでしまった・・・。
その日ナイバシャからトミーとシマウマの乗ったクレートをキトゥイまで運ぶのは、夜7時にナイバシャを出て着くのに午前4時までかかった。そのまま午前7時に起きて、またナイバシャまで戻ることになる。眠いよー!次の日の捕獲はイランド。ナイバシャの白人ファームでイランドを捕獲して、またその足でまっすぐキトゥイまで。到着はまた午前4時・・・。もー、眠くて倒れそうだわ・・・。その次の日にナイバシャで捕獲したオスのイランドも捕獲直後にクレートに入れた途端にショック死してしまった。その日はイランドが死んでしまったので、イランド用のクレートにシマウマを捕獲してキトゥイに移した。結局、今回キトゥイに移動が成功したのは、トミー11頭、シマウマ1頭、イランド1頭だけになった。
そして、楽しかった捕獲も6日間で終わってしまい、3年生の1学期が始まった。いやー、授業ばっかりでつまらんっ!それよりも気になるのが、このごろサファリに出てナイロビに帰ってくるとやたらお肌や髪の毛がボロボロになっていること!川で髪の毛を洗ったりしてた上に、前回はシャンプー忘れたので洗顔石鹸で髪を洗っていたら、髪がバッサバサになった・・・。それに顔に日焼け止めを塗ると埃っぽいのもあってニキビが出来るし、日焼けして目の下にシワが!すっごい、ショックだー。27歳、お肌の曲がり角をとうに過ぎているくせに、かなりお肌にひどいことしているみたい・・・。フィールド獣医さんになりたいが、毎回増えていく目のシワがちと気になる今日このごろ・・・。

